60P魔導で奏でるお伽噺(パルラント)
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その後の事をイオンは断面的にしか覚えていない。
オストロ教授の研究室の地下にあった秘密の実験室、魔導をロクに学んでいないイオンでさえ扱ってはいけないと知っている禁薬や呪物、魔導植物が所狭しと並んでいた。
そこでオストロ教授に魔導をかけられた。
何の魔導をかけられたのかは謎だが、それをネタにグレンはオストロ教授の実験の補助をさせられる事になった。
その、魔導の一部が解けたのはつい最近の事。
その日、オストロ教授の秘密の研究室で金の種が芽吹き、小さな金の木が生まれた。
実験の成功に浮かれたオストロ教授の隙を見て、グレンはイオンにかけられていた魔導を自分に移し替えた。
オストロ教授がヴォルヴァ助教授をたぶら……協力させて金髪の女生徒から取り上げた魔導書とグレンがこっそり持ち出したいくつかの魔導書のおかげで、イオンはオストロ教授の魔導の支配から逃れた。
だが、
「ごめんな」
魔導が解け、ぐったりしたイオンの額にグレンの手がイオンの額に乗り、強く押しつけられる。
グレンはイオンをこれ以上オストロ教授と関わらせないように、オストロ教授に関する記憶を封印した。
だが、封印されただけである記憶は事あるごとにイオンを刺激する。
それは、金の木への激しい違和感と嫌悪になって現れ、イオンを図書館に向かわせた。
金の木に対抗する科学技術を求めて。
「……だから、あなたはあれほど植物系の科学書を借りていたんですね」
イオンの頭に手を乗せたまま、目を閉じていたエリアーゼがゆっくりと目を開く。
その横顔を見たユーリはぎょっと硬直した。
いままで見た事もないくらい、エリアーゼの顔から表情が消え失せていたからだ。
一方その頃、
「これ、何だと思います?」
「さぁ?」×(司書ズ+魔導師)
首を傾げる大人達を心底あてにならんと落胆しつつ、ランクはこれを見上げる。
青い空を突き抜けんばかりに、果てしなく伸びあがる巨大な金の幹。
「まるで『天の果実』の物語みたいですね」
トランが手をひさしのように翳して空に伸びあがる幹の先を見上げつつ嘆息する。
「天の神々の元へ『知恵の実』を求めて金の木を昇った清い心を持つ青年が神々の試練に耐え抜いて『知恵の実』を手にして、幸せになった。よくあるお伽話だよな?」
あらすじを掻い摘んで言ったセルフにトランは頷く。
「とりあえず、調べて来る。君達はここで待っていてくれ」
浮遊魔導を紡いだアヴィリスが軽く地面を蹴って空に浮かび上がる。
ふわふわと彼方へ消えて行く彼を見送ったランクと司書たち一同はその場でとりあえずの休息をとる。
何しろ、わけのわからないところに飛ばされて一日を明かしたせいで皆消耗している。
「あの宮廷魔導師だけで大丈夫ですかね?」
「さあな?少なくとも俺達は空を飛ぶような事はできないから追いかけるのは不可能だし、……ちょっと、気になる事がある」
「気になる事?」
ロランはチャーリーの問いには応えずにランクを見やる。
「すまん。俺達で調べたい事が出来た。少しの間別行動させてくれ」
「…………戻ってきてくれるんですよね?」
「ああ」
頷いたロランを見、エクエスはランク達と目を合わせる。
「俺達はここで魔導師さんを待ちます」
「一時間もしたら戻ってくるつもりだ」
ランクの応えにロランは頷いてチャーリーとマックスと共に歩きだした。
「ランク。俺達もどうにかして追いかけられないかな?」
ロラン達を見送った後、不安そうにエクエスは問う。
「やめとけ」
ランクは首を振って彼方に伸びる金の幹を見上げる。
「醜い心を持った青年が神々から『知恵の実』を盗み出した結果、凄惨な末路を迎えた事を忘れんなよ」
「………司書さん達は追わなくていいんですか?」
「俺は自分の命が惜しい」
トランの問いにランクは即答した。