55P科学の音色で奏でる真実Ⅱ
で、
「何で男女一緒の病室に入れられたかな?」
ユーリのいる病室にイオンとゼクスもベッドを移された。
「要注意人物は、まとめて監視しやすいようにするのが鉄則だ」
「……」
自分達は要注意人物としてまとめて監視されることになったらしい。
「一応カーテンで仕切ってあげるし、何かあったらそのべル鳴らせばいいから」
衝立代わりに張られた濃い色のカーテンをしっかり整えたフィーナはついでにユーリの布団を整えて踵を返す。
「じゃあ、ゆっくり休むんやで?いい子にな」
「あ~、怖かった」
フィーナが完全に去った後、イオンはぐったりとベッドに寝転ぶ。
「何で白っぽい建物にいる奴らって裏表が激しいんだろーな」
「………何だ?それは」
意味不明なイオンの呟きを聞いたゼクスが首を傾げる。
「いや、それにしても、ミーシャ・ヴェルデが行方不明とはな。俺達と一緒にブッ飛ばされてなかったから、無事だと思ってたけど」
イオンの言葉にユーリとゼクスも頷く。
(あれ?)
「待って、何で無事だったの?」
「「え?」」
「対魔導用の腕輪をつけてたあたしでさえブッ飛ばされたのに、ミーシャは何で飛ばされなかったの?」
「それは……」
「いや、それより待て。一昨日からミーシャ・ヴェルデが行方不明になっているとしたら、昨日会ったミーシャ・ヴェルデは誰だ?」
言葉に詰まったイオンを遮るようにゼクスが問う。
ユーリ、ゼクス、イオンの三人はそろって沈黙する。
「………とりあえず、昨日会ったミーシャ・ヴェルデは偽者、だったんだろう?そう考えれば、あんな空き教室しかない場所で用もないのにうろうろしていた理由がわかる」
イオンの応えにユーリとゼクスは頷く。
「予想でしかないけど、ミーシャのふりしてた偽者はあたし達をブッ飛ばした魔導陣の関係者だと思う」
(そして、そいつは魔導書を使って魔導陣を作ったはず……!!)
そう考えればあの時のミーシャの不審な言動と行動に説明がつく。
魔導陣が描かれた教室に入ろうとするイオンを止める時、ミーシャはイオンの名を呼ばなかった。イオンの名を知らない別人だったとすれば、呼ばなかったのではなく呼べなかったのだと、理解できる。
「なるほど、そう考えるとあのミーシャが教室に入ろうとした俺達を止めようとした理由がわかるな。魔導陣を弄られたくなかったわけだ」
ゼクスがユーリの意見を肯定した。
「というか、イオン君。何であの天球儀触ったわけ?」
「あの天球儀、なんかおかしかったんだよ」
「どういう事?」
「天球儀っていうのは、球面に天体を模倣したモノなんだけど、あれはなんか違った」
「何かって何だ」
「それを今思い出してるんだ」
言いつつ、イオンはごろりと寝転がって空を見上げる。
一方、ゼクスは神妙な顔でユーリに向き直った。
「……なぁ、ユーリ。何で図書館は魔導書を一時回収する事になったんだ?魔導書がらみの問題に巻き込まれたんだ。理由くらい教えてくれ」
「口外しないって約束してくれるなら」
「オウカに誓って」
(恋人の名前かな?)
重々しく告げたわりに女性らしい名が出て来た事にちょっと驚く。
「……魔導書の“紋”に不具合が出たの」
「え!?」
「貸し出し期限過ぎても“紋”が反応しなくって、ただの不具合だろうって思われてたんだけど、状況はそれより悪かったみたいで」
さっきクライヴから貰った手紙から魔導書の“紋”が消えていた事が伝えられた。
だが、誰にも口外しないようにと書かれていたので、そこは言わない。
「もしかして、本から“紋”が無くなってたり、とか?」
「…ッ!!」
ユーリは目を見開いてイオンを見た。
「……………何でそう思うんだ?」
有り得ないだろうとゼクスは鼻で笑うが、ユーリはそれどころではない。
「イオン君。何か心当たりでもあるの!?」
「え?ちょ、おいっ!!」
カーテンを押しあけて来たユーリにぎょっとイオンは目を見張る。
そんなイオンを無視し、ユーリはイオンが横になっているベッドの上に乗った。
「おい、ユーリ!!年頃の娘がはしたない格好をするな!!」
ユーリの暴挙にゼクスが声を荒げたが、ユーリはそれも無視した。
「イオン君!!答えて!!」
「わかった!!答える!答えるから、ベッドから降りてくれ!!」
とりあえず居住まいを正してベッド脇のスツールに腰掛けたユーリを見、イオンは深く溜息をつく。
「二ヶ月くらい前の事なんだけど……」