53P現状打破の奇想曲Ⅹ
「で、お前達は無謀にも魔導陣に干渉して脱出を試みた、と」
「うん」
司書達と騎士科の生徒達はアヴィリスの言葉にこっくり頷いた。
良い子のようなその姿に否応なく頭痛がしてくる。
否、頭痛の種は彼らだけではない。
「あの、宮廷魔導師様。そこの魔導師達が今にも死にそうに痙攣しているんですが」
ランクがおずおずと言った通り、さっきまでは元気に転がりまわっていた蔦の塊がいまはぴくぴくと蠢くばかり。
「ありゃあ何だ?うちの『魔封じの棘』みてぇなんだが……」
ロランの問いを聞きつつ、彼は立ち上がる。
「もどれ」
ぽんぽんと蔦を叩くと、蔦はコロンと丸いボール状に固まった。
しかし、アヴィリスが見下ろす魔導師への視線は絶対零度。
「『科学という概念を消すための『創世』の魔導』だと?」
言うと同時にアヴィリスは魔導師の顔の側に足を振り落とした。
「ふざけるな!!」
空気を裂く裂帛の怒気がアヴィリスからあふれる。
「あの魔導が何と呼ばれているのかわかっているのかっ!?あの大魔導をロクな魔導すら使えない貴様らが制御できるとでも!?身の程知らずもいい加減にしろ!!」
皆が息を呑むほどの激昂。
司書達に拘束されても傲慢な態度を変えなかった魔導師達が一様に凍りつき、彼の怒りに震えている。
「……名前からして嫌な予感しかしない魔導だったが、ありゃあそーとーヤバそうな感じだな」
「面倒臭い事にガチで巻き込まれたっぽいっすね」
「これ、危険手当付きますかねぇ」
司書達は我関せず、といった様で小声で声を交わし合う。
「あの、止めなくていいんですか?」
アヴィリスが魔導師を締め上げるその様を見つつ、のんびりと話し合う司書達と違い、騎士科の生徒達は顔を引き攣らせつつ、不安を隠せない。
「止める義理もなきゃあ、責任もないな」
ロランはエクエスの問いかけを一刀両断した。
(……その潔さは賞賛に値します)
げんなりと肩を落とした仲間達を余所にランクはキッと眦を決して顔をあげた。
「セルフ、エクエス。あの宮廷魔導師を止めて、さっさとここから出る方法を考えて貰うぞ」
「え?」
「この空間の中でまともで良心的なのは俺達だけだ。俺達がしっかりしないといつまで経ってもここから出られない」
「……ランク先輩」
不安げなセルフとトランにランクはふっと微笑んでみせる。
「大丈夫だ。難しく考える事はない。いまここはボケしか居ない喜劇だ、ボケを導くツッコミを一発入れるだけだ。それで多少軌道修正はきく」
「ランク、お前もぶっ飛んできたか?」
「キャラの濃い義兄弟達に揉まれて生きて十数年、ツッコミには自信がある」
エクエスにぐっと親指をおっ立てて見せたランクは堂々と胸を張った。
「………ランク先輩、ちょっとカッコイイ」
「そうか?」
両手を握ったトランにセルフが胡乱な目を向け、
「ヤケクソになっただけだ。あいつは」
エクエスが溜息をついて項垂れた。
ランクはあたりを素早く見回し、最後に魔導師達にざっと目を通す。
ロランが最初に尋問した時に不遜だったり傲岸だったりした魔導師は無視し、さっきから視線を下に向けたまま俯いている若い魔導師とぐったりした様子の中年の魔導師に目星を付ける。
「エクエス。奴とその隣のおっさんを落とす」
「は?」
「テキトーな事言って、あの二人を魔導師達の中から離して別々に尋問する」
「了解」
「尋問は、拷問が得意そうな司書達に手伝ってもらうとして、お前達はこのあたりをちょっと歩いて水か食料がないか探してみてくれ。だが、絶対に俺達が見えなくなるようなところまで行くな。何も見つからなくても五分ごとに戻ってこい」
「「はい!!」」
トランとセルフがさっと身を翻す。
それを見送ったランクはぐっと身体を伸ばした。
「どうした?ランク。ヤル気じゃないか」
「ふっきれただけだ。いまならレベルト教官にもツッコミが入れられる」
強面で厳しいと評判の教官に噛みつけると豪語した級友にエクエスは顔を引き攣らせた。
(騎士科の生徒、舐めるなよ)
眦を決したランクはパンッと両方を叩いて気合を入れる。
「一丁足掻いてみますか」