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未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
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52P現状打破の奇想曲Ⅸ

「ん?」

気がつくとユーリは白い空間にいた。

「ここは………」

「“クラル・カーサ”だよ」

白い空間に浮かんだのは仏頂面のフィーナ。

彼女は赤い髪を揺らしてスツールに腰掛け、眼鏡を押し上げた。

「あ~……」

徐々に記憶が戻ってきた。

魔導書を探して普通科を彷徨い、転移系魔導で“悪夢の森”にブッ飛ばされ、命からがら『学院』に戻ってきて、その場で魔導書を見つけて安堵した瞬間、気を失ったのだ。

「何でフィーナがここにいるの?」

寝転がったまま問うと、フィーナの顔が面白いほど引き攣った。

「な、ん、で?ったか!?このあほう!!」

くわっと目を見開いて彼女はユーリの両頬をつまみあげた。

「一昨日ここに『魔導酔い』で入院したくせに、何で一日もたたんうちに入院してくるあほうがおんねんな!!医療実習であんたの名前聞いた時のうちの気持ちわかるかっ!?気ぃ遠くなったわ!!」

「あだっ、あだだだだっ!?すいません。すいません!!」

ぐいぐいと頬っぺたを左右に引っ張られたユーリは悲鳴をあげて謝る。

フィーナはチューリよりもっと南の離島の生まれのため、たまに怒るとそちらの方言が出てくるのだ。

「まぁ、幸いにも軽症といえば軽症だから明日には退院だけど?」

「え?明日!?ってか、今日って『学研』の何日前!?」

怒りが収まったのか、綺麗なザラート王国公共語で言われた言葉にユーリはハッと顔をあげる。

「『学研』、明後日」

「うっそおっ!!」

飛び上がって起き上がる。

『学研』までに回収しなければいけない魔導書ノルマは一冊しか達成されていないというのに、『学研』は明後日とはどんな悪夢だ。

ユーリは冷や汗をかいて大慌てでベッドから出る…否、出ようとした。

「どこ行くねんな」

ガッとフィーナに肩を掴まれ、ユーリはベッドに逆戻りする。

「医者の卵の前で医者の指示無視しようなんてええ度胸やん。ユーリ?」

文系女子学生とは思えない腕力とドスのきいた声音でベッドに押さえつけられたユーリは生唾を飲み込む。

「今日はベッドで一日安静。トイレ以外でベッド出たら、わかっとんな?」

「…はい」

漁師と商人の街カナレでは海の無法者である海賊も彼らの客であり、海千山千のカナレの商人と漁師たちは彼らに負けない胆力を持っている。

そんなカナレで医者をしている父を持つフィーナもまた無法者に負けない迫力をお持ちでした。

「……何を心配してるのか、わかんないけど、仕事の事なら片眼鏡かけたおにーさんが代るって言ってたよ。ほら、そこに手紙もあるし」

ベッドサイドの机の上に確かに一枚の便箋が簡単に折りたたまれて置いてある。

そこにはクライヴの字でフィーナが言った通りの事が書いてあった。

「そういえば、あたしと一緒にゼクス先輩とイオン君も運び込まれたと思うんだけど」

「ああ、ド派手な金髪と鉄色の髪の先輩な。あの二人は隣の部屋。あの二人も今日は一日絶対安静」

何か飲み物を貰ってくる、と立ち上がったフィーナは白いカーテンを開ける。

「おっす」

「………」

イオン、ゼクスのふたりは、彼らが入院しているだろう部屋から出て来たところだった。

「ふたりとも」

フィーナの低い声が聞こえた瞬間、ユーリは素早く耳を塞ぐ。

「絶対安静の意味がわからんのかあああああぁん!?」


一方その頃。

「………」

ロラン率いる司書達とランク率いる騎士科の生徒達はその物体を囲んで見下ろした。

「………どうします?それ(・・)

無言の皆を代表するようにチャーリーはそれ(・・)を指差した。

「どうするって言われてもなあ」

がっかり感が半端ないマックスは面倒臭そうにそれ(・・)を見下ろし、

「…とりあえず、起きて貰うしかないだろう」

諦観の面持ちのロランは溜息をつきつつそれ(・・)を弱冠乱暴に揺さぶる。

低い呻き声と共にそれ(・・)が目を開く。

目の色は琥珀色。

起き上がり、意識をはっきりさせるために振った頭についていく髪の色は藍。

「………ここは?」

あたりを見回した彼が見たのはだだっ広い廃墟のような場所で佇む男達と少年達。

「んなもん、こっちが知りてぇよ」

ロランが紫煙を吐きだして空を見上げた。

薄闇に飲まれてゆく空の色から、ここが野外だとそう強く実感させられる。

「あなたが天井から落ちて来たと思ったら、いきなり景色が変わったんです」

赤銅髪の少年の言葉に目覚めた彼は顔を引き攣らせる。

「……落ちて来た?」

「ああ。そこの赤い蔦みたいなのと一緒に……」

マックスが指差した先に魔導師に絡みついている赤い蔦があった。

どうやら、自分の試作品たる蔦も一緒に落ちて来たらしい。

だが、とにもかくにも身体の異常はどこにもないらしい事にまず安堵した。

「しかし、まぁ。期待した効果は得られなかったとしても、多少なりとも行動した結果が出たのは喜ばしい事だな」

がりがりと項を掻きつつ、ロランがこちらを見ている事に彼は肩を揺らす。

「この状況をどうにかしてくれないか?宮廷魔導師サマ」

「…………勘弁してくれ」

本格的に厄介事に巻き込まれてしまったアヴィリスが、そこにいた。


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