51P現状打破の奇想曲Ⅷ
ぐおおおおおっ
「「「ぎゃーっ!!」」」
まるで地面から生えているかのように上半身だけ地面から出している少年少女に巨大な熊が襲いかかる。
絶対王者のように仁王立ちで、鋭い爪が生えた前足を振り下ろした巨大熊。
「のおおおおおっ!!」
素っ頓狂な悲鳴を上げるイオン、最早これまでとゼクスは自分に振り下ろされる凶器をただ見つめ、ユーリは来るべき衝撃に堪えるように歯を食いしばって目を閉じた。
だが、巨大熊の前足は何かに弾かれたかのように、獲物を捕らえ損ねる。
「あ?」
ただ一人目を開けていたゼクスは見た。
巨大な熊とこちらを遮るように薄く輝く壁のようなモノが立ち上がった瞬間を。
「え?」
顔をあげたユーリは魔導陣の中心に浮かぶ天球儀を見た。
鈴の鳴るような音を立てて天球儀はくるりと回り、光を放った。
目もくらみ、開けていられないほどの光の中、一瞬の浮遊感の後、ユーリは意識を失った。
ぼんやりと揺らいだ視界いっぱいに薄暗い天井が広がっている。
ぼーっとその天井を見上げていたユーリは隣で人の動く気配に気づいた。
「生きているみたいだな」
「…………何とか…」
「うっす」
左右にゼクス、イオンがいる事を確認したユーリはふと、背中に何か柔らかいものが当たっている事に気づく。
(?)
しかも、背中の何かは低く呻いている気がする。
「……………ど、いてくだざ~いい」
「んん?」
「え?クライヴさん!?」
声の主に気づいたユーリは慌てて立ち上がった。
振り返った彼女が見たのは、体格のいい少年二人の下敷きになって青い顔をして潰れている哀れな青年の姿だった。
そして、あたりを見回せば、埃っぽい部屋に雑然と積み上がった機材や椅子……物置代わりにされている教室に自分達がいるのがわかった。
「あ、帰ってきたんだ~」
埃っぽい床の上にへたり込んだユーリはホッと息をついた。
「ははっ、助かった」
何か共感したのか、無言で頷いたゼクスとイオンが拳を叩き合わせる。
「無事で何より、ですね」
少年達の下から這い出したクライヴはずれた片眼鏡を直して立ち上がった。
「とりあえず、三人とも病院に行ってもらいますよ。特にユーリ、君は絶対ですよ」
「あ、はい」
『魔導酔い』でつい先日病院送りになったが故だろう。
おっかない看護師長の顔が思わず浮かび、遠い目になった。
遠くなった視線の先に、ユーリはふと煌めく光を見た気がした。
椅子の下に落ちている、金色の破片の中に四角い何かがある。
「ユーリ。どうしました?」
四つん這いで椅子の側に蹲るユーリにクライヴは問う。
「あった」
壊れている、円形の金の何かの中にあったのは魔導書。
『神秘の手引き』
ユーリが探していた魔導書がそこにあった。