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未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
52/85

46P 現状打破の奇想曲Ⅲ

久しぶりの投稿です。

お待たせしました!!

森の中は日没が早いらしい。

夕陽の所為で薄いピンクに見える雲が青い空にかかっている。

その下で足早に進む少年少女の足元はもはや暗い。

「やばい、暗くなってきましたよ~。センパ~イ」

「見りゃわかる!!情けない声出すな、騒ぐな。道案内に集中しろ」

薄暗い闇に覆われる森の中、三人の学生が小走りで道なき道を進む。

「イオン君、頑張って!!頼りになるの、君しかいないんだから!!」

荒い息を吐きながらユーリは必死に彼らを追う。

さっきから、ユーリの足だけが遅い。足手まといの自覚に泣きそうになる。

「おい、ユーリ。大丈夫か?」

「だ、大丈夫………」

立ち止まったユーリにゼクスが振り返る。

「先に進もう。急がないと、こんなとこで野宿なんて嫌だよ」

ゼクスを追い越す気持ちで彼の前を進む。

(気持ち悪い)

ユーリはさっきから原因不明の不快感に悩まされていた。

(『魔導酔い』を起こしたときみたいだ。頭がぐらぐらして気持ち悪い)

キーンと頭を刺すような耳鳴りが不快だ。思考がまとまらない。

ぐらりと視界が揺れる。

「おい!!大丈夫か!?」

(……………何だこれ?)

柔らかい土と青臭い草の匂いに、ようやく自分が地面に突っ伏している事に気づいた。

何かに躓いて転んだらしい。

「う、大丈夫……」

立ち上がろうと手をついた、自分の指先に違和感を覚える。

そこに、地面を抉るように描かれた何かの線。

円形のような模様を描くそれに、ユーリは見覚えがあった。

「魔導陣!!」

「えっ!?」

ユーリ達の周り一帯を複雑怪奇な魔導陣が張られていた。

「これが、転移の魔導陣か?」

「たしかに、俺達はこのあたりから移動してるっぽいですけど……」

「とりあえず、この陣の中心に行こう。魔導陣にとって、中心はすごく大事な物らしいから」

『禁制魔導書』達から仕入れた豆知識を思い出しながら、ユーリは提案する。

「それなら多分わかる。計算するからちょっと待ってくれ」

イオンは魔導陣の円を調べるように動き回りつつ、手帳に何かがりがりと書き綴る。

「この魔導陣……、動いてる?」

「なに?」

魔導陣に触れていたユーリは、その陣が微かに鳴動している事に気づいた。

「確かに、何かに反応しているようだ」

同じく、魔導陣に触れ、何かを探るように集中していたゼクスが顔を顰めた。

「え?なになに?ちょっと、説明してくれ!!」

ひとり、取り残されたイオンが焦ったように喚く。

「俺達が使おうとしている魔導陣が何かの干渉を受けている」

「………すんません。意味わかんないっす」

「簡潔にいえば、このままでは我々はこの魔導陣を使えない」

「え゛?ここで野宿決定っすか!?」

「うるさい。喚くな。まだそうと決まったわけじゃない。……それに、このかんじ……」

ゼクスが何かを探るようにまた目を閉じる。

「巻き戻している…、ような?」

「すんません。エキセントリック発言されても一般人な俺らにはわかんないっす」

「右に同じく」

引き攣った顔で一歩引きつつイオンが言うのにユーリも従った。

「お前どっちの味方だ図書館司書ぉっ!!」

ユーリは先輩からそっと目を逸らす。

薄暗い森の中で何かと交信してるっぽい、そこそこ男前な15~6才の男の子って、視覚的に微妙に残念。

「黙秘権を使わせてください」

「お前ら…」

後輩二人の嫌な反応に、ゼクスは拳を握りしめて震える。

「あっと、あの、先輩この魔導陣の中心ってあのあたりみたいっすよ?中心に行ったらもっと詳しい事わかるんじゃないっすか?」

視線を逸らしたまま、イオンは指差す。

「お前らとは後でしっかり話し合うからな?逃げんじゃねぇぞ」

「「オッス」」

がっしりと肩を掴まれたイオンとユーリはそろって体育会系な返事で答えた。

ゼクスの迫力満点な威嚇顔がおっかなかったせいである。

 りーん……、りーん……。

「え?」

ユーリの懐中時計が微かな鈴のような音をたてた。

「おい。ユーリ、その懐中時計は何だ?」

「何で音たててんの?」

軽やかな音を立てる懐中時計をイオンとゼクスが興味津々で覗き込む。

「あ、この懐中時計は図書館司書同士が連絡取り合うように使っているの。呼び出し音が鳴ってるって事は、誰かが呼んでるってことなんだけど」

「じゃあ出ればいいじゃん」

躊躇うように鳴り続ける懐中時計を見下ろすユーリをイオンが急かし、

「少しでも誰かと連絡が取れる可能性があるなら無視するわけにはいかないな」

ゼクスがさっさと出ろ、と顎で指す。

「わかった」

観念したようにユーリは覚悟を決めたように懐中時計を開く。

「もしもし?」

『ユーリ?ユーリですか!?』

「その声、もしかしてクライヴさんですか!?」

どこか焦ったかのような青年の声はつい最近、図書館内で半分ほど(しかばね)化していた哀れな副館長の声だった。

 王立学院図書館の女帝、もとい女館長であるエリアーゼでなかった事に少しホッとしつつ、ユーリは問う。

「何でクライヴさんが?さっきまでこれ連絡できなかったのに」

『君が転移させられた魔導陣を使って一時的に懐中時計同士を繋げたんですよ。君、今どこにいるんですか?』

「あ~…、あたし以外に男の子二人一緒にブッ飛ばされたんですけど、科学科志望のイオン君が言うにはここは“悪夢の森(アルプトラウム)”だそうです」

『……またエライ所に吹っ飛ばされましたね』

しばしの沈黙の後、クライヴの引き攣った声が懐中時計から響いた。

『早急に君たちに行って欲しい事があるのですが、その森の中に転移系の魔導陣があるはずなんです。それを』

「あ、いま転移系っぽい魔導陣のちょうど中心あたりにいます」

『え、そうなの?』

拍子抜けしたようなクライヴの声と共にほっとした吐息が聞こえた。

『じゃあ、好都合』

「え?」

何だか、不穏な含み笑いが聞こえた気がする!!

『一旦、懐中時計の共鳴を切りますけど、その場から何が起こっても動かないで下さいね?何が起こっても』

「は?」

やけに不安な言葉を重点的に念押しされた気がする。

「ちょっと待ってください!!クライヴさん!?」

『……』

我に返って聞き返した時にはもうすでに懐中時計は沈黙してしまっていた。


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