44P 現状打破の奇想曲(カプリチオ)
百戦錬磨の傭兵の前で哀れな囚人が跪いている。…ように見える光景。
目を閉じ、米神を揉んでいたロランが目を開ける。
「『万物創世』?」
「そうだ」
頷いた魔導師を前にロランは首を傾げた。
「その言葉自体の印象からだと嫌な予感しかしない言葉ですね?」
チャーリーの相槌を聞きつつ、ロランは魔導師に向けて顎をしゃくる。
「お前達、司書なら聞いた事があるだろう?【真理】について」
壮年の魔導師の真面目くさった顔を、ロランは胡乱な顔で見下ろした。
「おい、お前いま幾つだ?虹の根元を掘ったって宝箱は出てこないし、てるてる坊主を作っても空は晴れるとは限らないんだぞ?」
「ポケットを叩いてもビスケットは割れるだけで増えませんし、抜けた乳歯を埋めても金貨になったりはしませんよ?」
憐れむような声色と目線を向けたのはチャーリー。
「まさかとは思うが赤ちゃんはコウノトリが運んでくるなんて言うファンタジーな事信じてないよな?」
青褪めた顔で心配するように言うのはマックス。
「きっ、貴様ら!!」
激高した魔導師が立ち上がろうとし、『白枷』に躓いて転んだ。
もごもがと蠢く芋虫のような魔導師を見下ろし、司書達は溜息をつく。
「………あの、どういう事ですか?」
冷めた司書達と沸騰しているような魔導師を見比べ、騎士科の生徒の一人がチャーリーに問う。
非現実的な状況にパニック状態にあったが、ようやく落ち着き、状況を読み解けるまでになったらしい。
「ん?ああ、君達は知っているかな?『聖都の大賢者』のお伽噺」
言う事はかなり辛辣だったが、柔和そうな姿形のチャーリーから話を聞くことにしたらしい騎士科の生徒達に、彼はこの部屋には似合わない柔らかな表情で問う。
怪訝な顔をしながら、騎士科の生徒達は顔を見合わせつつ、頷く。
「このおっさんはいい年してお伽噺の中に出てくる不思議な本の存在を信じてんだよ」
「?」
「ほら、聞いた事あるだろう?『大賢者は何でも知っている本を持っていた』って」
「あ、あれ」
お伽噺で読んだ、話の一片に騎士科の一人が頷く。
「アレを一部の魔導師達は【真理】の魔導書って言っているらしいんだよ」
「で、【真理】を得た者がこの世界の魔導を制すってな」
一片たりとも信じていない口ぶりで言うチャーリーとマックスに生徒達は何とも言えない顔をして魔導師達を見る。
「いいや!!ある!!この国、いや、この『学院』内にはあるんだ!!」
騎士科の生徒達とは別に魔導師とその仲間らしい魔導科の生徒は叫ぶ。
「この世界には!!二つ名を持つ魔道具や魔導機、魔導師はいるが、『賢者』の名を冠するモノは二つしかない!!」
ぴくりと司書達は表情を強張らせる。
「ひとつは『元老院』の「八人賢者」、もうひとつ、ここにはあるだろう?」
「貴様!!まさか!!」
ロランが椅子を蹴立てて立ち上がった。
「『賢者の大迷宮』に何をするつもりだ!!」