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未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
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42P魔導と騎士と科学の狂音曲Ⅸ

と、言う訳でこの三人はさっきから似たような光景を何十回と繰り返しているのである。


……………いい加減、飽きもする。


「でも、影の伸び具合から考えるにそろそろ魔導機か魔導具にぶちあたってもおかしくないんだけどな」

「そうなのか?」

イオンはゼクスに頷き返しつつ、あたりを見回す。

「そう言えば、あたし達はその空間を閉じる魔導機か魔導具の形ってどんなものなのかわからないけど、具体的にどんなものなのかな?」

「形は色々だろうし、擬装を施されている可能性もあるが、近づけば俺はわかる」

ユーリは首を傾げてゼクスを見返す。

「それってどういうっぶっ!?」

温かくて固いものにぶつかったユーリは顔を押さえて立ち止まる。

目の前にはセフィールド学術院の制服を纏った背中。

どうやら、ユーリは突然立ち止まったイオンの背中にぶつかってしまったらしい。

「イオン君?」

「………あの、さぁ。多分、あれ、じゃねぇ?」

「「え?」」

イオンが引き攣った顔で指差す先、ユーリとゼクスが見るとそこには明らかに魔導機か魔導具っぽい石柱のようなものが立っていた。


石柱はユーリの腰のあたりまでの高さがあり両腕で抱え込めるくらいの大きさだった。

その表面にはこれでもかっというほどたっぷり魔導文字や記号が描かれ、その表面と天辺には“魔鉱石”っぽい石が埋め込まれていた。

「…………これ、だよね」

「だな」

「わかりやすいほどにな」

非魔導系三人組は三人三様の溜息をついた。

「それで、これどうすんだ?こいつを壊せるようなもん、持ってる?」

イオンの言葉にユーリは歯噛みする。

対魔導用の便利グッズが入った、王立学院図書館司書装備は全てあの教室に落としてきてしまった。

懐中時計の機能ではこんなに“魔鉱石”をごてごてつけた魔導機―もしかしたら魔導具かもしれない―は、きっと壊せない。

「ちょっと離れていろ」

「へ?」

ゼクスが言いつつ、涼しげな音を立てつつ腰から下げていた剣を抜く。

「なぁ、先輩。それって刃先つぶした摸造刀だろ?そんなもんで、それ、壊せんのか?」

イオンの問いにゼクスは応えない。

刃先を石柱の、“魔鉱石”のついていない場所に軽く当てる。

金属の刃先と石が打ち合い、ちぃん、と固い音をたてた。

その音の余韻に聞き入るようにゼクスは目を閉じ、深く息を吸い、吐きだす。

深い呼吸に合わせて、ゼクスはゆっくりと腕を振り上げ、空に剣を掲げる。

その光景はまるで何かの儀式か祭祀のようで、ユーリとイオンは一言も発する事も出来ずに見守った。

空にあげられた剣の切っ先が日の光を浴びて反射し、ゼクスの呼気が止まる。


キィン……ッ


高い音が鳴り響くと同時に、チンッとゼクスの手元で剣の鍔と鞘が重なる音がした。

遅れて、ゴトリと鈍い音。

「え゛?」

イオンとユーリは真っ二つにぶった切られた石柱を見た。

「あっ」

ハッと顔をあげたユーリはあたりの光景がぐにゃりと奇妙に歪みながら、変化していくのを見た。

「こういう結界系に似た魔導は『要』になっている物がひとつでも壊れると連鎖反応でそのほかの『要』も壊れる」

言いつつ、ゼクスは油断なくあたりを見回す。

景色が安定した、その時にはユーリ達は木々に囲まれた、小さな泉の側にいた。

「とりあえず、これで閉じられた空間からは脱出できた。あとは、転移魔導陣を探すぞ」

ガンッ、ガンッと石柱にナイフを突き立ててゼクスは“魔鉱石”を抜き取り始めた。

「その前に、ちょっと休憩しようぜ。先輩」

イオンがくたびれたようにその場に座り込む。

「あたしも、少し休ませて欲しいです。喉も渇きましたし……」

弱冠ぐったりしている後輩達を見、ゼクスはふと、後輩達が非戦闘系の普通科の生徒だと思いだす。

騎士科とは違い、普通科の生徒達は嗜み程度にしか身体を動かさない。

毎日戦闘訓練で体を鍛えている騎士科の自分とは体力の面で大きく違うのだ。

その上、魔導にも慣れていない。

それなのに、いきなり訳のわからない魔導に囚われ、精神的なダメージも大きかっただろう。

よくぞ泣き言も言わずに知恵を絞り、森の中を探索し続けた。

ゼクスは後輩達の評価をあげつつ、同意する。

「とはいえ、まぁ、のんびりもしていられないっすけどね」

泉の水を飲み、一息ついたイオンが溜息交じりに言う。

「戦闘系の訓練受けてる先輩はともかく、俺とユーリが夜の森を歩くのは、多分無理」

「ああ、だろうな」

イオンのヘタレな自主宣告に、ユーリの消耗ぶりを見ながら、ゼクスは頷く。

「じゃあ、転移魔導陣を早い事見つけないとダメだね」

「それが問題なんだよなぁ」

ぐったりしつつ、イオンが溜息をつく。

「………ざっと木の状態を見る感じ、この森は結構デカイ。魔導陣を探すのも大変になりそうだけど、かといって日あるうちに森を抜けられるかどうかも危うい」

「何故わかる?」

「あ~、……森っていうのは、木々の集まりなわけだけど、簡単に言うと木にも派閥争いってやつがある。太陽の光をどんだけ独占できるか日々過酷な生存競争を続けてるんだけど、ある程度デカイ派閥が出来ると安定して細い木や雑草っていうのが生えにくくなる」

周りを見るとイオンの言うとおり、周りにはあまり雑草や細い木は無く、ある程度大きな木々が天に届けとばかりに立派に佇んでいる。

「で、俺はヴェルガ地方のアルエット領内の、しかも魔力影響のある森って断定した瞬間から死ぬほど嫌な予感がしている」

「まさか……」

イオンが顔を引き攣らせ、ゼクスが生唾を飲み込みつつ冷や汗をかく。

「え?なに?」

一人話題から放置されているユーリは焦る。

「ここは“悪夢の森(アルプトラウム)”か?」

「うげっ!?」

ゼクスの言葉にユーリは呻いた。

悪夢の森(アルプトラウム)

ザラート王国の北東のあたりに位置する、いわゆる迷いの森と有名な場所である。

「しかも、“悪夢の森”には魔力で変異した魔獣もいるって聞く。ほとんどが夜行性だって聞くけど、……普通の動物でも夜行性の癖に昼にもうろちょろする事あるらしいし……うっかり俺らが魔獣に出会っちゃったら本気(マジ)で即死☆だからな?」

ユーリとゼクスは息をのむ。

それは本当にシャレにならない。

強い魔力を受け続けた生き物は植物と同じく変異する事がある。

大人しく、人と交流する出来る種もいると言えばいるが、ほとんどが凶暴でなおかつ大きい。

まともな武器を持ち、使える人間がたった一人しか居ないこの三人が魔獣に会えばイオンの言う通りの結果しかないだろう。

「いままでは閉じた空間内にいたから大丈夫だったって考えた方がいいよね」

「ならば、一層急いだ方がいいな。多分、魔導の残滓が残っている間は魔獣も近づいては来ないだろう」

「で、問題は魔導陣の場所か……」

「一般的に考えると、あたしたちが一番初めにいた場所が一番有力候補だよね?」

「ああ、そっか」

なるほど、とイオンは手を叩く

「しかし、どうやって元の場所に戻るんだ?」

「あ、その方法はある。俺、いままでの道筋はメモしていたから、それと地面に今まで書いて来た十字線を道標にすれば元の場所に戻れる」

イオンがぴらっと生徒手帳を振って見せる。

「じゃあ、行くぞ。あまり時間もないんだろう?」

「「は~い」」

ゼクスに従い、ユーリとイオンもよい子の返事をした。


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