36P 魔導と騎士と科学の狂音曲Ⅲ
ゼクスの名前、修正しました!!
「う……」
ユーリは目を開け、身体を起こす。
周りを見渡した途端、がっくりと項垂れた。
「ほんとうに、勘弁してよ。もう………」
乱立する木々に、鬱蒼と茂る深い緑たち。
あたりを見回すと一面の森って何の嫌がらせですか?
しかも、
「うあ………何だ?」
「ここはどこだ?」
イオンとゼクス先輩つき。
(今回こそ、詰んだ。かも………)
ユーリの落胆を余所に、深い緑は柔らかにざわめき、軽やかな鳥の声が響いた。
木々に囲まれた、森の中。
小さくぽつんと開いたすき間に三人の少年少女が車座になっていた。
「と、言う訳であたしは魔導書を探してあの校舎に辿り着いたわけ」
ユーリは簡単に自分があの校舎にいた理由をイオンとゼクスに説明した。
もちろん、探している魔導書が『一級危険魔導書』や『一級魔導書』とは教えずに。
ユーリの説明を聞いたイオンが深海より深い溜め息をつく。
「じゃあ、何か?俺らは魔導書の不思議な力に巻き込まれたってわけか?」
「いや、違うと思う。……イオン君が触っちゃったあの天球儀。多分あれは魔導書を守る為の罠だったんだと思う」
「で、俺達はその罠の魔導の中にいる。と」
「うん」
頷いたユーリの前でイオンが頭を抱えた。
「転移系の魔導ではないのか?」
「う~ん………。その可能性も、無きにしも非ず、ですけど、どっちにしろこの森が魔導で“閉じた状態”にあるのは間違いないと思います」
「何故そう言い切れる?」
「だって、そうじゃなかったら、イオン君も先輩もここにいないと思いますよ?」
「あ」
イオンとゼクスが顔を見合わせた。
森の中で気がついたゼクスとイオンはパニックになり、いきなり走りだしたのだ。
ユーリが制止する間もなく、呆然と佇んでいると、しばらくしないうちに彼らはここに戻ってきた。
何度も何度もそれを繰り返した結果、ようやく落ち着いた二人にユーリが状況説明を行ったという訳である。
「幻術系の魔導の可能性は?」
「う~ん………」
「幻術系の魔導じゃねえとは思うぞ」
考え込むユーリの思考をイオンが遮断した。
「何故わかる?」
ゼクスの問いにイオンが疲れ切った顔で応えた。
「幻術系の魔導ってやつは……魔導で五感を騙して幻を現実に見せる術らしいんだけど、ある欠点がある」
「欠点?」
「術を掛けられた人間が見た事のないものは認識させる事はできない」
溜息をつきつつイオンは言う。
「どういう事?」
ユーリとゼクスが首を傾げた。
さっきから、イオンの説明は投げやりでちょっとわかりにくい。
アヴィリスならばもう少しわかりやすく、かつ、熱心に教えてくれるだろうが……。
「論より証拠だな。これ見ろ」
言いながらイオンが差し出したのは、白い小さな花をたくさんつけた可憐な花。
「あんた、これがどう見える?」
「どうって、白い六角形の花をつけた花だが?」
指されたゼクスが首を傾げつつ、答える。
「ユーリ、あんたは?」
「え?あたしも、そう見えるよ?六角形のちっちゃくて白い花をいっぱいつけた花だよね?」
「で、ふたりともこの花の名はわかるか?」
「「……」」
ユーリとゼクスがそろって押し黙った。
「二人が知らなくて当然だ。この花はリリオ。この時期、ごく一部の地域にしか咲かない花だ」
「リリオ?リリオって紫色で鐘みたいな形の花を付ける花だよ?コレとは全然形が違う」
「何だ、リリオ自体は知ってんのか?」
ユーリの反論にイオンが目を瞬かせる。
「あたし、出身がランビールだから。植物は多少詳しいつもりだよ」
「ランビール?またすっげぇ田舎だな。……って、言っても俺もレアレ出身だからな…」
「おい!!話を脱線させるな。この花が何なんだ?」
イライラした口調のゼクスを前にイオンがこほんと小さく咳をして改めた。
「お互いの認識の確認だ」
「?」
「俺達三人とも育った環境も知識も価値観も違う。それなのに、お互いまったく見た事のない花をまったく間違えること無くお互いがきちんと認識した。つまり、これは幻ではなく、現実だっていう事だ」
「……なるほど」
頷いたゼクスの顔色は悪い。
「つまり、それって……」
「転移系の魔導で飛ばされて、この森に閉じ込められたって感じだな」
イオンの締めくくりと共に、三人が三人ともがっくりと項垂れた。