34P 魔導と騎士と科学の狂音曲《ポリリズム》Ⅰ
お久しぶりの投稿です。
新キャラ出ます。
「いたか!?」
「いや!!どこに行った!?」
ばたばたと白衣を着た少年たちが廊下を走り回る。
その廊下の片隅に亜麻色の髪を一本の三つ編みにまとめた少女がぽつりと立っている。
「あ、君!!ここに黒っぽい髪の女の子が来なかったか?」
少女を認めた一人の白衣の少年が彼女に声をかけた。
「さぁ?」
ミーシャが首を傾げると、白衣の生徒達は諦めたように踵を返して戻って行く。
その姿が完全に見えなくなったのを確認した後、彼女はそっと背後の観葉植物を覗き込む。
「行ったぞ」
「…………どうも、ご迷惑をおかけします」
植物の後ろから出て来たのは黒っぽい髪の女の子―ユーリだ。
彼女は何か大きなものを大事そうに抱えている。
大きなものは鳥籠。中にいた赤い小鳥がパタパタとせわしなく飛び回る。
「君は何を考えているんだ?いま、魔導科と科学科予定の学部が対立しているのを知っているだろう?そんな、明らかに怪しい鳥を連れていたら、魔導科の差し金と思われても仕方ないぞ?」
ミーシャの視線の先にはピルピルと鳴きながら身体を震わせる小鳥。
「そんなにおかしい?この鳥……」
ユーリは疲れ切ったかのようにその場に膝をついて呟く。
普通科に入り、鳥の先導のままに進むうちに科学科の生徒達に出くわし、いきなり追いかけられたのだ。
「ああ、おかしいぞ」
「うわっ!?」
背後から聞こえた声にユーリは跳ね上がる。
「どこから君は湧い出た!?」
湧いて出たのは、というかユーリの背後にいたのは背の高い派手な金髪に榛色の目のゴーグルを首にかけた少年、イオン・ガスパールだ。
「あんた、俺と同じ基礎科学の授業受けてるだろう!?次の授業はここの棟の三階の講義室で座学だって先生言ってたじゃねぇか!!」
驚かれた事が癪に障ったのか、イオンは声を荒げた。
たまたま進行方向が同じだったから、この現場に鉢合わせしたらしい。
「………それは、失礼した」
一瞬で萎れたミーシャに溜息をつきつつ、イオンはユーリの持つ鳥籠に向き直る。
「この地方に住んでる鳥じゃないってのはすぐわかるけど、愛玩用に飼われてる鳥にしてはちゃんと風切り羽が付いてる。…でも、よく見ると羽と体のバランスがおかしいし、…それに何より」
「何より?」
「影、無いじゃん。その鳥の」
「「あ」」
二人の視線の先、鳥の足もとには何もなかった。
「魔導の不思議なとこって、そーいうとこなんだよな」
「はぁ」
「俺達人間が物を視覚するっていうのは、……詳細は省くけど、光の情報を目が読みとっているのであって、光を反射できないモノや実体を伴わないモノを本来視覚することは出来ないはずなんだよ」
「つまり、どーいう事?」
「影の出来ないモノは視覚できない」
ぴるぴると鳥籠の中で赤い小鳥は鳴く。
「じゃあ、この鳥は?」
「うん。だから、不思議なんだよ」
肩をすくめて言い切ったイオンにユーリは弱冠疲れたように肩を落とす。
が、ふと顔をあげてイオンとミーシャに問う。
「不思議と言えば、ねぇ、何でこのあたりを騎士科の生徒達が動き回っているの?」
「わたしとしては、何故魔導書回収している司書が普通科彷徨っているのかが不思議なのだけど?」
ミーシャが首を傾げる隣でイオンも首を傾げる。
「さぁ?よく知らねぇけど、あいつら、誰か探しているっぽいぞ?」
「騎士科の生徒が人探し?普通科で?」
「おう。鉄色の髪で銅色の目の騎士科の生徒を探してるって」
「何で?」
さぁ?とイオンとミーシャは首を傾げる。
「とにかく、騎士科の人間が探してる人見つけたら教えてやってくれ。じゃあな」
イオンは軽く手を振るとユーリとは別方向に歩きはじめた。
「あ」
その背を見ていたユーリは、彼にもろに激突する少年の姿を目撃することになった。
激突されたイオンの体が軽く舞い、反対側の壁に叩きつけられる。
「ぐげっ!?」
蛙がつぶれたかのような悲鳴をあげて蹲ったイオンを余所に、激突した少年は泰然とした様子でその場に佇んだ。
青い騎士科の制服に腰から下げられた摸造刀、鉄色の髪を短く整え、幼さを残した甘い顔立ちを吊り気味の鋼色の目が硬質に仕立てている。
「君達」
「はい!?」
こちらに向いた鋼色の瞳にユーリは訳もなく背筋が伸びた。
硬質で冷たく、生真面目な面持ちで少年は真っ直ぐにユーリを見やる。
「魔導科はどこだ?」
「は?」
イオンの語る、人の目の構造はいまのザラート王国での認識です。
昔の医療といまの医療が違うように、ザラート王国と現代日本の常識とはかけ離れております。(基本、ザラート王国の科学力は地球での産業革命前くらいの設定……ただし、作者の趣味と何やらかんやらの理由で一部進んでいたり?)
あくまでフィクション上の設定ではありますので、ご了承ください。