水面下で謡われる童歌
柔らかな日の光が蔓草や様々な花をモチーフに飾られた窓枠を嵌めこまれた窓から差し込む。
光が照らしだすのは、落ち着いた色合いの壁紙と深い色合いの絨毯、上品なデザインのソファにいかめしい装飾が施された暖炉。
主のいない、貴族の執務室のようだが、明らかに違う点がひとつある。
それは、部屋を埋めつくさんばかりに整然と並ぶ本棚と革張りの重厚な本。
そのせいだろうか、明るい外から差し込んだ光だというのに、この部屋の中に差し込んだ途端、光は明るさという色を失くした。
まるでこの部屋にある何かに明るさを吸い込まれていしまったかのように。
薄暗い、静かな部屋の中、誰もいない部屋。
その中で小さなひそひそ声がする。
<開いた>
<ああ>
<気づいたか>
<知ったか>
小さな、小さな、そよ風に吹かれ揺れる木々の立てる囀りよりも小さなその声達。
しかし、その声の色は命にあふれる木々のものとは違い、深い深淵のように不吉な色をしていた。
<新しき、狂いし賢者の代弁者が目覚めた>
<悲しき旅人の宿命が動き出す>
<願わくば、この旅が最後の旅であるように………>
暗い、昏い、冥い……永遠のように深い声が祈る。
詫びるように、焦がれるように、希うように。