泡沫~interval~
ユーリは静かな“海”にいた。
「?」
あたりを見回すと、暗く、果てしない水平線だけが見える。
ぬるい水の中、腰まで水に浸かりながら、ユーリは己の下を見下ろす。
身動きしたはずなのに音ひとつ立てない不気味な水の底には花畑が広がっていた。
目が覚めるような躍動感のある赤、太陽のように明るい黄、世界を憂うような青、深遠なる賢者のような緑、妖艶な秘密のような紫、生まれたての命のような白………まさに百花繚乱。
見た事のないような形の花や四季も関係なく花々が咲き誇る、極色彩の花園。
その花園から一輪の花がふわりと浮かびあがる。
ゆらりゆらりと揺れながら、ユーリの目の前までその花は浮かびあがった。
その花をユーリはほぼ無意識のうちに受け取る。
その途端、花はいきなり枯れ果て、黒い鎖に変わる。
鎖は小柄な少女の体を包み込み、水中に沈む。
黒い鎖に縛られたまま、少女の体は水の中で目を閉じる。
それから、しばらくの時がたち、
ある日、少女の体を縛る鎖が断ち切れた。
それと同時に、静かな海に脈動が生まれる。
脈動に合わせ、水が持ち上がり、人の姿になった。
男にも女にも見える中性的な顔立ちと繊細で優美な細い体。
閉じられた瞳が開き、どこまでも深い深い漆黒が水底を見下ろす。
身体を覆うほどに長い髪がゆらりと揺れ、色のない唇が小さく動く。
【哀れなる旅人よ。汝の魂に幸いあれ】
水底に沈んだ花畑の中、漆黒の瞳が開いた。
その手に四角い本を掴んで。