22P迷走行進曲part4
あまりの眩しさから、瞳を閉じたユーリの耳にアヴィリスの声が届いた。
目を開けた瞬間、深い藍色と怜悧な美貌が映った。
「アヴィリスさん!?」
呼んだ瞬間、足元の感触が消える。
ふわり
一瞬の浮遊感の後、絶望のような墜落感がユーリを襲う。
世界を震わせるような悲鳴をあげてユーリは落ちて行く。
冷たい空気が針のように身体を突き刺す。
何も見えない闇の中、自分を見失いそうになる。
気を失うその一歩手前。
ユーリの体を温かな何かが包んだ。
目を開けたユーリの視界に写ったのは太古の叡智を宿したかのように落ち着いた琥珀色の瞳。
「落ち着け。俺達はただ落ちているだけだ。死ぬわけじゃない」
深い、深い理性を保った声がユーリの体に響く。
すぅっと心が凪いでいく。
「この現象はお前が起こしたはずだ。お前の【歌】が起こした事。ならば、お前ならどうにかできるはずだ」
体に響く、言葉に凪いだはずの心が恐怖と不安に揺れる。
そんな事、知らない。私は、こんな事を望んでいない。
叫んだはずの声は意味不明な「うぅ…ああぅうう」という呻き声にしかならなかった。
「落ち着け。大丈夫だ。お前は蛙に食われた後、『自分にできる事』をやったんだろう?」
深い声はまるで何かの呪文のようにユーリの体に染みわたっていく。
(そうだよ)
あたしは『自分にできる事』をした。
『書架』にある【語られてはいけない言葉】を読んだ。
(『書架』………)
見下ろした『書架』は新しい言葉をその書面に浮かび上がらせていた。
「【世界よ。語れ、小さき世界、【真理】の欠片】」
ぱらり
ページが自然とめくれ、新しい言葉が浮かび上がる。
「【我は【語る者】、【歌う者】、【真理】の番人】」
呟きのような声が光の粒となり、ユーリと彼女を包むアヴィリスを囲う。
「【歪みを正し、我が前に【真実】を】」
ぱらり
ページをめくる小さな音と共に、黒の世界が一変する