表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
13/85

12P戦う司書と魔導師達2

計算尽くされた調和の下、美しく整えられた庭の一部にもうもうと土煙が立ち上がる。

土煙が視界を塞ぐ中、不完全に発散された魔力の残滓がパリパリと弾けて火花を飛ばす。


(魔導の不完全爆発?)

アヴィリスは一瞬で爆発原因を割り出し、身構える。


「な、何だ?」

「ごほっ、くしゅっ!!」

土煙が視界をふさぎ、庭にいた人々が煙にむせる中、爆心地にひとつの人影がむっくりと立ち上がる。

何かを引きずるような鈍い音と規則的な足音と共に人影がこちらに近づいてきた。

「っ!!」

腕に覚えのある魔導師や魔導科生徒、司書達が身構え、人影を警戒する。

刹那、一陣の風がふわりと煙を裂く。


「ろ、ロラン……さん………」


土煙の中から出て来たのは、いぶし銀のような色合いの髪と目を持つしなやかな体躯の男。


「ん?ユーリか?」

ユーリの顔馴染みの司書が、図書館で見た事のある男の人の顔面をがっちり片手で掴んでぶら提げていた。

もう一方の手には重厚な装飾がされた本。魔導書がある。


「魔導書の回収ですか?」

「ああ」

いつもと同じ口調で飄々とした態度を崩さないロランに司書達は皆脱力する。


「いいんですか?こんな、乱暴に……」


ユーリの視線の先には、木っ端微塵になった『探求の館』の窓と大きなクレーターが開いた魔導科寮の前庭。

何をどうしてこうなったのか、さっぱりわからない。

だが、ロランに片手でがっちり顔面を握られながらピクリとも動かない魔導師と無傷でピンピンしているロランを見るとさすがに魔導師が哀れになってくる。


「ユーリ。それはコレ見てから言え」


眉を顰め、その体躯にふさわしい厳しい顔をしたロランが苦々しげに吐き捨てる。

ロランが回収した魔導書の見返しを開いてこちらに掲げられた。

見返しに記された、知を司る女神をモチーフにした“紋”。 その一部が歪に歪んでいる。

わずかな“紋”のブレだが、そこからパチパチと帯電するように魔力が発光していた。

それを見たユーリはぎょっと目を見張る。


「“紋”を剥がそうとしたんですか!?」

「ああ、こいつの持ってる魔導書の“紋”の魔導に異変があったから、最優先で回収して来いって館長からのお達しでなっ!!前にもこいつは“紋”剥がそうとした前科持ちだから!!踏み込んでみたら、思った通りだ!!」

「いだだだだっ!!いだっ!!すみません!!すみません!!もうしません~っ!!」

「っざけんな!!前は未遂だったから見逃したが、今回はもう見逃せねぇ!!エリアーゼ館長の所に一緒に来てもらう!!」


魔導師の顔面をロランの指がみしみしと鈍い音を立てて締め上げていく。

ロランの手の中でびくんびくんと釣りあげられた魚のように痙攣(けいれん)する魔導師を魔導師の卵達は蒼褪めた顔で注目する。


「ユーリ、奴は何者だ?修繕専門の司書じゃなかったのか?」


とうとう動かなくなり、息絶えた(ようにみえる)魔導師とその原因となった司書を交互に見やりながら、アヴィリスは問う。

ロランという司書には王立学院図書館で何度か会った事がある。間違いなく司書としての仕事をしているはずの彼は何故、あそこまで荒事に慣れているのか?


「ううん。ロランさんは基本的に図書館の保安と図書の保護を行ってる、“保安司書”なの。でも、ロランさんは手先が器用だし、ベテラン司書だから、大量に破損図書が出たときとか、手が空いてる時はいろんな業務を手伝ってくれるの」

「……」

なるほど、とアヴィリスは頷く。


王立学院図書館は広い。

その中で犯罪行為が起こらぬよう取り締まり、図書を盗み出したりされないよう守るのが“保安司書”の役割。

荒事に慣れているように見えたのは彼の職務内容によるものらしい。

一応、納得したアヴィリスは、ふと、『探求の館』から癖っ毛の男がが息を切らしながら走ってくるのに気付いた。


「……あれは」

見覚えがある顔にアヴィリスは目を細める。

「あ、ネロさん」

以前、『始まりの叡智』のページをうっかり読み上げて修繕室を大破させてしまった司書である。


「遅いぞ。ネロ!!どこで何してたんだ?」


走ってきたネロはオリアナが持っていたのと同じトランクを足元に置き、荒い息をしたままロランを睨みつける。


「ロランさんが『探求の館』に穴開けたせいで何故か(・・・)!!俺が管理人達に怒られてたんですよ!?っというか、窓に穴開けて隣りの庭に突っ込んで何でそんなピンピンしてんですかッ!?」

「慣れだ。慣れ」

「有り得ないっ!!」


涼しげな顔で、しれっと言い捨てたロランに、くわっとネロは噛みつく。おそらく、この場にいる全員がそう思っただろう。


「うるせーな。大体、そこの窓ぶち抜いたのも、ここの庭に穴開けたのもこいつのせいだぞ?」


 ぶらん と力を失っている魔導師の体を揺らしてロランは不満そうに唇を尖らせた。


「………………魔導攻撃された癖に、何でそんなにピンピンしてるんですか!?」

「気合いだ」

「嘘つけええっ!?」


なおもキャンキャンと喚くネロを五月蠅そうに見下ろしたロランは「アレ出せ」と片手を差し出す。

ネロはむすぅっとした顔でトランクから『魔封じの棘』を取り出した。

赤い毛糸玉のようなそれを見た途端、アヴィリスが嫌そうに顔を顰める。

迷子のなった魔導書の事件で『魔封じの棘』に拘束された記憶は彼にとって不名誉なものらしい。


「アホ!!殺す気か!!それじゃなくて、拘束用の魔導機があっただろう」

「あ?コレですか?『白枷』」

「それだ」

「ちょっと待て」

司書二人のやり取りを聞いていたアヴィリスが突然声をかけた。

自分たちの行動に「待った」を掛けられたロランはいささか不満げに顔を顰めて彼を見下ろす。

「何だ?」


「『魔封じの棘』に拘束されると、死ぬ事があるのか?」


「魔力吸い尽くされると、さすがの魔導師も死ぬだろ?」


きょとんとした顔で、さも当然のようにロランが言う。

意外な事を訊かれたという顔をするロランの隣でネロがうんうんと頷く。


「『魔封じの棘』の魔力吸収量に耐えられた魔導師って聞いたことないですね」

「魔力吸い尽くされて死にかけた魔導師は聞いたことあるけどな」


さらっと言われた危険発言にアヴィリスは顔を引き攣らせる。


ルキアルレス達と戦ったあの夜、自分はそうとは知らずに殺人兵器をポイポイ投げつけられていたのだ。

おそらく、あのまま『棘』に囚われていたら自分は魔力を吸い尽くされ、木乃伊になって死んでいたのだろう。


(危なかった………ッ!!)

ドキドキと不規則な鼓動を繰り返す心臓に手を当てながらアヴィリスは冷や汗をかく。


「縛れ『白枷』」

ロランの声に反応して白い色の鎖が無情に魔導師に絡みつく。


「ネロ、お前はこのままこいつを館長の所に連れてけ。俺はリストの魔導書を回収する」

「了解……。あとで『探求の館』の管理人達に謝っといてくださいよ?本当に激怒してたんだから」

「気が向いたらな」

ネロからトランクを受け取った担いだロランは豪快に笑いながら魔導科寮の中に入って行く。


(普通の司書が魔導の不完全爆発の中から出て来て、どうしてピンピンしているんだ?)

背中に寒い物が走るのを感じながらアヴィリスは首を傾げる。


彼らの話から予想すると、いまネロに引っ立てられていく魔導師は借りている魔導書を死守すべく、回収に来たロランに魔導攻撃を喰らわせようとしたのだろう。

その魔導攻撃をロランは詠唱を止める事で防いだようだが、何かの拍子に不完全に成功してしまった魔導が爆発、庭に投げ出されたらしい。


 普通の人間なら、あんな風にピンピン動き回れたりしない。

 魔導の波動を帯びた魔力は一般人に恐ろしく有害だ。


王立学院図書館は魔導師からしても不思議な場所(ワンダーランド)だが、そこで働く人間もビックリ人間なのだろうか?


「………王立学院図書館司書は化け物なのか?」

「あの人は特殊です!!」

一緒にすんな!!とその場にいた司書全員が叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ