愛妾セリア残酷ざまあ物語
王都で「氷の公爵」と恐れられるアルベルトに嫁いで三年。
伯爵令嬢エルサに与えられたのは、離宮の隅にある古びた塔と、最低限の食事だけでした。
「お飾り妻様、今日も一人の食事ですか? ああ、旦那様は今夜も美しい愛妾のセリア様とお過ごしですよ」
家を救うための政略結婚。夫は一度もエルサの寝所を訪れず、使用人たちは彼女を「空気」のように扱い、愛妾セリアは公然とエルサを嘲笑っていました。
転機は、隣国からの国賓を迎えた晩餐会で訪れます。
急病で倒れたセリアの代わりに、エルサは「形合わせ」として出席を命じられました。ボロボロのドレスを揶揄われながら、エルサは静かに会場へ向かいます。
しかし、そこで事件が起きます。
隣国の王子が、エルサの姿を見るなり驚愕し、その場に跪いたのです。
「……まさか、聖女様!? 五年前、国境の村で流行病から数千の民を救い、名も告げず去った『白銀の救世主』とお見受けします!」
会場が静まり返りました。
実はエルサは、生家で虐げられていた頃、独学で習得した魔力で多くの人々を救ってきた隠れた聖女だったのです。
「何を馬鹿な……。彼女はただの、無能な飾り物ですよ?」
動揺するアルベルトを、王子は冷たく一蹴します。
「無能? 彼女がいなければ我が国は滅んでいた。公爵、貴殿はこれほどの至宝を、あんな下品な女と比較し、埃を被らせていたのか。……エルサ様、どうか我が国へ。貴女を正当に評価し、王妃として迎えたい」
その瞬間、アルベルトの瞳に激しい火が灯りました。
彼はエルサの細い手首を掴み、初めて必死な形相で彼女を見つめます。
「……行かせない。私の妻だ」
「今さら何を。あなたは私に一度も関心を持たなかったでしょう?」
エルサが冷ややかに微笑むと、アルベルトは崩れ落ちるように膝をつきました。
彼は、幼い頃に自分を救ってくれた初恋の少女がエルサだと気づかず、彼女の生家(汚職に塗れた伯爵家)への憎しみを彼女にぶつけていたのです。
その後、エルサを蔑んでいた使用人たちは一斉に解雇され、愛妾セリアは「聖女への不敬罪」で修道院へ追放。エルサの生家も、彼女を道具にした報いを受けて没落しました。
「許してくれ……。君を失うくらいなら、私は地位も名誉もいらない」
離宮の塔ではなく、公爵邸の最も豪華な主寝室。
かつての「氷の公爵」は、今やエルサの足元に跪き、毎日涙を流して愛を乞う「溺愛の獣」へと変貌していました。
「まだ許しませんわ。私が寂しかった三年間分、毎日愛を証明してくださるかしら?」
微笑むエルサに、アルベルトは狂おしいほどの執着を込めて、その指先に何度も誓いのキスを落とすのでした。




