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処刑された第一王子は極東で皇帝となる  作者: たけすみ


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2/2

森に舞う霧刀姫

 船を浜辺に隠し、俺たちは島の中心へ向かって歩き出した。


 潮の匂いが薄れ、代わりに深い森の香りが肺を満たす。


 巨木が空を覆い、光は緑に濾過されていた。


「……道があります」


 クラリスが屈み、土をなぞる。


 踏み固められた跡。


 車輪ではない。人の足だ。


「集落があるな」


「十中八九、武装勢力です」


 リゼットが淡々と言う。


 だがその横顔はわずかに警戒していた。


 俺たちは道を進む。


 数分後――


 風が、変わった。


「止まって」


 女の声。


 次の瞬間、木の上から影が降る。


 土煙。


 構えたのは大ぶりの刀。


 黒髪を高く結い上げた少女だった。


 日焼けした健康的な肌。


 鋭い金色の瞳。


 年は俺と同じくらいか、少し下。


「どこの者?」


 刀の切っ先が俺の喉元を捉える。


「旅人だ」


「嘘。旅人はそんな足運びしない」


 鋭い。


 ただの見張りではないな。


「ここは霧刀族の縄張り。許可なく踏み込んだ侵入者は斬る」


 言い終わるより早く、踏み込んできた。


 速い。


 一直線。


 迷いのない斬撃。


 俺は半歩ずらし、刃を受け流す。


 金属音。


 重い。


「……やるね」


 少女の口元がわずかに上がる。


 楽しんでいる。


 続けざまに三連撃。


 上段、横薙ぎ、足払い。


 洗練されている。


 実戦慣れしている。


 だが――


 四撃目。


 わざと踏み込みを浅くした瞬間、俺は間合いへ入った。


 肘を打ち込む。


 だが。


「甘い!」


 膝が脇腹にめり込んだ。


 衝撃。


 内臓が揺れる。


 血の味。


 浅いが、確かに入った。


「殿下!」


 リゼットの声。


 次の瞬間――


 森が、凍った。


 濃密な殺気が解き放たれる。


 空気が震え、葉がざわめく。


 クラリスの姿が消える。


 少女の瞳が見開かれる。


「……っ!!」


 鳥が一斉に飛び立つ。


 森の奥へ、衝撃が伝播する。






――同刻、集落中央


 巨大な御神木の下。


 酒を片手に胡坐をかいていた男が、ゆっくりと目を開けた。


 白髪交じりの黒髪。


 鋭い双眸。


 霧刀族族長、ゲンジ。


「……敵か」


 森から伝わる気配。


 アヤメの闘気。


 それに混じる、未知の圧。


 ひとつは荒れ狂う魔力。


 ひとつは冷たい刃のような気配。


 そして――


 もうひとつ。


 底知れぬ静寂。



「ほう」


 地面に置いた刀が、かすかに震える。


 森がざわめいている。


 霧刀族の戦士たちも顔を上げる。


「長……?」


「騒ぐな」


 短く制す。


 先ほど森を貫いたあの殺気。


 あれは娘のものではない。


「面白い」


 ゆらりと立ち上がる。


「しばし様子を見る」


 森の奥を見据える。


 獣のような笑みが浮かんだ。


――森


「やめろ」


 俺は低く言う。


 リゼットの魔力が膨れ上がったまま止まる。


「ですが……」


「命令だ」


 ぴたり、と圧が消える。


 クラリスも姿を現す。


 少女は息を吐いた。



「さて」

「悪くない一撃だった」



 少女の頬がわずかに赤くなる。


「……まだだ!」


 再び踏み込んでくる。


 今度は本気。


 速度が一段上がる。


 だが、もう見えた。


 刃を躱し、手首を取る。


 体勢を崩し、地へ。


 喉元へ寸止め。


「終わりだ」


 静寂。


 森が息を止める。


 少女は俺を見上げる。


「……負けた」


 そして、笑う。


「強いな、あんた」


 ぐっと距離を詰めてくる。


「私はアヤメ。霧刀族長の娘だ」


 嫌な予感がした。


「うちは強さがすべて」


 胸を張る。


「私より強い男は族長候補」


 腕に、柔らかい感触。


「ちょ……」


 その瞬間。


 背後から再び、凄まじい圧。


 先ほどの何倍も濃い。


 リゼットとクラリスの殺気だ。


 森がびりりと震える。


 遠く、集落の中心で。



 族長ゲンジの口元が、吊り上がる。



(こりゃ俺も負けるかもな)


一方――



 俺は慌てて距離を取る。


「誤解だ!」


「殿下は無防備すぎます」


 リゼットの目が冷たい。


 クラリスは無言で睨んでいる。


 アヤメはけらけらと笑った。


「面白い連中だな!」


 くるりと背を向ける。


「じゃあ集落へ案内するよ!」


 軽やかに歩き出す。


「父上も、あんたなら歓迎するさ!」


 振り返る。


 満面の笑み。


「よろしくな、レオン!」


 俺は一瞬、言葉に詰まる。


 死んだ名。


 だが。


「……ああ」


 森の奥で、巨大な気配が静かに笑った気がした。


 極東の島。


 思っていた以上に、強者がいる。


 そして――


 面白い。

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