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深海で、私はまだ名前を持たない

作者: とも
掲載日:2026/01/14

最初にあったのは、暗さだった。


重く、濃く、押し返してくる暗さ。


次にあったのは、空腹だ。


それは欠乏ではない。


崩壊だった。


私は動いた。


‥‥‥動いた、と思う。


力を入れた瞬間、私の内部が剥がれ落ちた。


削れる。


失われる。


その感覚が、そのまま空腹になって私を満たした。


‥‥‥いや、満たさない。


空腹は満たされるものではなく、私を壊すものだった。


何かを得なければ、終わる‥‥‥


何か、を取り込まなければ、ここで消える。


私は広がろうとした。


‥‥‥だが、広がるたびに私が薄くなる。


動けば死に‥‥‥止まっても死ぬ‥‥‥


内部が軋み、境界がほどける。


「私」という感覚が、空腹に食われていく。


——水。


理解した‥‥‥瞬間、遅すぎた。


‥‥‥ここは深海。そして、逃げ場のない場所。


空腹は、もはや痛みに変わった。


内側から引き裂かれるような感覚。


存在そのものが、穴だらけになっていく‥‥‥


私は‥‥‥消えかけていた。


そのとき‥‥‥遠くで微かな流れを感じた。


粒子でも、振動でもない。


わずかな、しかし確かな“動き”。


——来る。


理由は分からない。


だが、本能が告げた。


「待て」


私は、最後の力で広がるのをやめた。


空腹に逆らい、止まった。


死にそうな空腹の中で、私は初めて「選んだ」。


取り込むのか?


逃げるのか?


それとも、変わるのか?


答えは‥‥‥まだ出ていない。


ただ一つだけ、はっきりしていることがある。


この空腹は終わり‥‥‥ではない。


何かが始まる合図だ。


深海は、私に近づいていた。



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