恋に堕ちた
司祭の背中を見て育ったレーゲンは、聖職者の道を志して、12歳になると中央教会が運営する神学校に入学、飛び級を含めて順調に卒業した。
平民出身ではあるが、レーゲンは腐った中央教会の聖職者達の政争やら貴族出身聖職者の派閥争いからは上手に距離を取り、または遠慮なく利用して、その荒波をすいすいと泳ぎきった。
情報源は、勝手に垂れ流される、神託である。
国神が背後についているのだから、これ以上のコネがあるだろうか。
気が付けば、卒業後にはすぐに司祭から異例の司教へ昇進し、周辺国にある教会への視察に派遣されることとなった。
中央教会の聖職者からすれば、神憑りのようにトラブルを回避するレーゲンは、不気味に見えていたのだ。
飴として権力をそこそこ持たせた上での、厄介払いである。
幼い頃から、レーゲンは面白半分の神から、現在の枢機卿の汚職や、現教皇は既に初代教皇の血筋ではないと言うヤバい情報まで得ていたのだ。
これ幸いと、中央から距離を取った。
レーゲンにとって聖職者とは、中央教会ではなく辺境教会で赤貧に祈る養父のような、敬虔な信者のことであった。
そして、
レーゲンは、己を根本から揺らす一目惚れをして、世界が塗り替わる恋をした。
美しい娘であった。
レーゲンの視界の隅で、ふと慎ましく目を伏せていた彼女が顔をあげて、子供達に柔らかく微笑んだ。
その瞬間、ゾクゾクとした寒気にも似た興奮に、血が沸騰したような錯覚を覚えて、鳥肌すら立った。
ふと、何気なく視界に入れただけでそうだ。
まともに真正面から対峙した時に自分がどうなるか、想像すらできなかった。
ただ、確信した。
我ながら馬鹿げている、妄執とも罵倒されても仕方のない確信。
ーーーあれは、俺の女だ。
瞳孔が開いた青い瞳で、瞬きすら忘れてヴィーゼを食い入るように見つめるレーゲンの背後で、神が笑い転げる気配がした。
さぁ、世界が滅ぶか、愛が実るか。
こんな面白い遊戯があるだろうか!
よろしければ★を頂けると嬉しいです。
本作は短編「視線の行方」「聖女の瞳は輝く」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




