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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その産声は嘆きの様に

作者: 笹門 優

ちょっぴりグロ的描写があります。


2025.12.21 かぐつち・マナぱさまより頂いたイラストを使用させていただきました(*'▽'*)

わおっ!



 ピクッ


 動かなかったはずの身体が、ほんの僅かに震えを見せた。


 何処か死後硬直を思わせる、目を凝らしてようやく解る程のちょっとした指の動き。

 だが、それはやがて大きな震えとなり、指から手へ、手から腕へと動きを広げた。


「…………ぅ……」


 小さな呻き。

 彼/彼女はゆっくりと、まるで怯える様にそっとその瞼を開けた。 その奥にあるのは宝石の様な紫の瞳。


 瘴気と悪意、死臭と腐臭の漂う中、彼/彼女はその身を起こす。


 暗く、光のない、それでも広く、澱んだ空気の満ちた空間。 風の流れはなく、ただ鼻につく臭いが刺激する、異質な部屋だ。


 身を起こすのに触れる床の感触は石。 敷き詰められたそれは石畳か。

 手が何か、柔らかいモノにも、触れる。


 グニャ、と、それは原形を留めずに潰れた様だ。 何かが手を染める。


 よく見ると、離れたところにある扉は石と鉄。 壁は岩、天井も岩。


 暗闇に適応しだした瞳が周囲の状況を映しているのが理解出来る。



 先程触れたモノも、別に転がるモノも見える。


 周囲に転がるのは死体、屍体、死骸。

 死んだばかりのモノ、腐敗し始めているモノ、既に白骨化しているモノ、原形を留めないモノ……。

 古今の年代も解らぬ、人だった塊。


 彼/彼女は緩慢な動作で立ち上がる。 その仕種は立つ事自体に慣れていないかの様にも見える。 そう出来る事を知ってなお、立ち上がる事を躊躇う足腰を痛めた老人の様に。


 立ったのは華奢な身体。 その身に纏うのは飾り気のない貫頭衣。

 ボサボサの長い髪には赤黒いモノが固まっており、酷く饐えた臭いを放っているが、それに気にした様子はなく、重厚な扉へ向かって歩を進める。

 転がる死体に足を取られながら。

 転がる死骸をバラバラに砕きながら。

 素足のまま歩く姿は何処かぎこちなく、それでも時間を掛け扉の前へ。


 扉は鉄枠に削った石を填め込んだ、非常に重い物だ。 ノブに当たる物はなく、閉じ込める為の場所である事は理解した。 理解出来た。


「……ぁぁぁ……」


 呻く。 擦れた声は声にならない。


 叩く。 重厚な扉に拳を叩き付ける。

 痛みは感じない。 痛みは解らない。


 爪を立てる。 石と鉄の扉を引っ掻く。

 白く引かれた線は爪の削れた跡か、石の削れた傷か。


「……ぁぁぁぁぁぁぁ……」


 叩く。

 叩く。

 引っ掻く。

 引っ掻く。


 歯の立たない扉へ執拗に攻撃を加えるその姿はまるで狂人だ。


 それでも扉はそれに耐え抜き、彼/彼女の脱走を許さない。

 彼/彼女はそんな扉を見据えると、死体を引き摺り再びその前へ。


「ぁぁぁぁ……ぁあぁあああぁあああっ!」


 死体の足を掴み大きく振り回すと、それをそのまま扉へ叩き付けた。

 部屋中に響く、鈍い衝撃音。


 扉は健在。 だが、鉄の枠に歪みが見えた。


 頭蓋骨の砕けた死体を放り投げ、別の死体を手にする。

 その重さに適応した筋肉が先程より軽々とそれを運ぶ。


「……あああああああああっ!!」


 先程よりもずっと鋭いスイングで振られる「それ」は、当然の様により大きな衝撃音を立てて、ついに扉の一角を叩き割った。

 脱出するにはまだ狭いが、これで希望は見えた。


 まだまだ振り回すモノはある。




「……ああああああああっ!!」


「……あああああああっ!!」



 疲労はある。


 感じずとも、疲労は蓄積している。 積もり溜まる澱の様に、着実に蓄積される。

 だが彼/彼女が動けなくなるより先に、扉は大きく砕けた。 石は砕け、鉄はひしゃげ、蝶番に当たる部分が破損したそれは、そのまま向こう側へと倒れたのだ。


「……ははは……はははは……」


 彼/彼女は、笑うという行為を知らない。

 ただ自然に出たその声を不思議に思いながら、それに身を委ね、笑った。 笑いながらも、扉だった部分を通り抜け、徐ろに振り返る。


 見えるのは、砕けた死体、倒れたままの死体、腐りかけた屍体、腐った屍体、見る影もない死骸、崩れ落ちた死骸。

 腐臭と死臭の漂う、不可思議な文様の描かれた部屋。


 この部屋を作った者は、どうやら彼/彼女に何か思うところが在るらしい。 何となくそれを感じ取る。


 ――だが自分はここから抜け出そう。


 ――だから自分はここから抜け出すだろう。


 ――そうだ。

 自分を呼び出し、こんな肉に閉じ込めた者よ。


 ――お前を探そう。

 お前を探しにここから出よう。


 ――自分は自由になる。


 ――お前を殺して。


挿絵(By みてみん)


「あはははははっ……はははははははっ」


 彼/彼女は嗤う。


 産声をあげるかの様に


 生誕を嘆くかの様に




 嗤った。




 イメージは古いタイプの悪魔召喚。

 沢山の生贄と魔法陣で受肉に成功させました。

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― 新着の感想 ―
何かで縛りでもしないと、喚ばれたモノが喚んだ者の意のままになるとは限らない、ですよね。多くの場合、喚ばれたモノの方が力があるのですから……。 目的を遂げたその時に、彼/彼女は果たして本当に自由になれ…
 ホラーやダークファンタジーを書くのも読むのも好きなので、嬉しくなってしまいました。彼ないし彼女が出て行った先には一体、どのようなドラマが待っているのでしょうね。この後の展開をあれこれ想像するのも楽し…
それが「何」であれ、この世に生まれ落ちたのならば祝福せねばなるまい。 ハッピー・バースデー、アンノウン。 汝の行く末に、善き出会いが有ることを祈ろう…。
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