表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様へと祈りを込めて  作者: 暦海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/46

また明日

「――いやー、ごめんね陶夜(とうや)くん。正直、私もこうなるなんて思ってなくて」

「あっ、いえお気になさらず! ……ですが、結局どのような理由だったのでしょうね」



 それから、ほどなくして。

 柔らかな陽光照らす縁側にて、二人腰掛けそんな会話を交わす。一週間前にお邪魔した、風情豊かな依月神社の縁側にて。


 さて、彼女が言っているのは、もちろん例の事態――あれ以降、あの不思議な路地裏が現れなかったという事態で。


 まあ、彼女にとっても予想外だったことは何も驚くことじゃない。それは、あの日僕を見送ってくれた際の様子からも明らかで――



「……でも、たぶんだけど……周りに人がいたら出てこないんじゃないかな、それ」

「…………へっ?」


 卒然、隣から届いた言葉にポカンとする僕。……えっと、それはどういう…………あっ。


「……やっぱり、覚えがあるみたいだね」

「……はい、そう言えば」


 すると、僕の反応から察したようで、穏やかな微笑でそう口にする風奈(ふうな)さん。……そう言えば、そうだったかも。ここ一週間……というか、その期間(とき)に限らず周囲に人がいなかったことは恐らくほとんどない。普段から閑散としたこの辺りではあるけれど……少なくとも僕の通る時間に、実際に人ひとりの姿もないことはきっとほぼなくて。そして、言われてみれば……確かに、あの日は本当に人ひとりいなかった気が――



 ……だだ、それはそれとして――


「……その、風奈さん。仰ってることは理解できるのですが……ですが、あの日まで一度もあの路地裏を見ていないというのは、少しばかり疑問の残る点でして……」


 そう、躊躇いがちに尋ねてみる。いや、決して好き好んで異を唱えたいわけではないんだけど……ただ、どうしても些かの疑問は残ってしまうわけで。人の全くいないタイミングがそうそうないといっても、あの日がそうだったように全くないわけじゃない。なので、見落としていたわけじゃなければ、流石にあの日が初めてというのは少し――


「……ああ、それはたぶん、私がこっちに来たのがわりと最近だからかな。確か、一ヶ月前くらい」

「……そう、なのですね」


 すると、仄かに微笑み答える風奈さん。一ヶ月……うん、それならあの日が初めてでも不思議じゃない。……ない、のだけど――


「ん? どうかした陶夜くん」

「……あ、いえ、なんでも……」


 そう、きょとんと首を傾げ尋ねる風奈さん。そんな彼女に、たどたどしく答える僕。……うん、まあいっか。




「ところで、まだ言ってなかったけど……さっきはありがとね、陶夜くん」

「……へっ?」



 その後、しばし他愛もない話を交わした後ふとそう告げる風奈さん。でも、言わずもがな感謝をしていただけることなど何もしていない。とは言え、彼女がお世辞を言っているようにも……いや、そもそも感謝にお世辞なんてないか。……ただ、それはともあれいったいどういう…………あっ!



「あの、風奈さん。僕、前世でなにかしましたか?」

「うん、できれば現世で考えて?」


 半ば確信的な僕の問いに、半ば呆れたように微笑み答える風奈さん。……あれ、違った? 正直、これしかないと――



「……ほら、あれだよ。非常階段で、私のこと護ってくれたでしょ? 自分の身を挺してまで」

「……ああ、あれでしたか。ですが、あれは元々風奈さんが僕を助けに来てくれて……それで、結局最後まで風奈さんに護っていただいて……だから、僕は何もしていないも同ぜ――」

「――そんなことない!」

「……へっ?」


 卒然、僕の言葉に大きな声で反意を示す風奈さん。それから、



「……君が何と言おうと、私は君に護られた。私に手を出すな……怖かったはずなのに、あの子にはっきりそう言って私を護ってくれた。私、すっごく嬉しかったんだよ? だから……ありがとね、陶夜くん」





「――またね、陶夜くん。アルバイト頑張ってね、また明日!」

「はい、ありがとうございます風奈さん。また明日です」



 それから、しばらくして。

 和やかに挨拶と共に、笑顔で見送ってくれる風奈さん。そんな彼女に一礼し、神聖な白い鳥居を潜る。すると、ほどなく視界に映るはあの閑散とした住宅街……うん、戻るのはここなんだ。まあ、あの森の中じゃなくて良かったけど。たぶん、あの距離じゃバイトに間に合わないし。……まあ、それはそうと――



「……また明日、か……」



 そう、ポツリと呟く。……うん、着くまでにどうにかしなきゃね。流石に恥ずかしいし、こんな緩んだ顔見られちゃったら。

 






 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ