今、僕がすべきは――
「…………あぁ?」
すると、ほどなく振り返りドスの効いた声を放つ花本さん。風奈さんに気を取られたからか、僕を掴む力が弱まっていたのでどうにかその隙に逃れる。……ふぅ、ひとまず助かった……けど、安心してる場合じゃない。
「……き、来ちゃ駄目です風奈さ……ゴホッ!」
そう、未だ痛みの残る喉からどうにか叫ぶ。だけど、僕の言葉に応じることなく、悠然と階段を降りこちらへ来る風奈さん。そして、穏やかに微笑み僕の前に立ち、徐に僕に背を向け――
「……さて、もう一度聞くけど――こんなところで、何してるのかな?」
そう、改めて問う風奈さん。それは、確かに僕の知る彼女の声……されど、僕の知らない強烈な怒気を孕んだ声音で。そして、そんな彼女に対し――
「はぁ? 答える必要とかあんの? あたしらが何してようと、お前には何の関係もねえだろ。だいたい、お前誰だよ?」
「……そう言えば、自己紹介がまだだったよね。私は二年一組、依月風奈。それで、貴女は……いや、別に良いか。興味もないし」
「……っ!! ……てめぇ」
そう、明確に苛立ちを孕んだ声で尋ねる花本さんに平然と答える風奈さん。いや、平然といっても表情は見えないのだけど……まあ、声の印象から。ただ、そんなことより――
「……っ!! 陶夜くん!!」
「……っ!! ……お前、なんで……」
直後、声を上げる風奈さん。そして、正面には大きく目を見開く花本さん。……まあ、そうなるよね。風奈さんへ振るったはずの拳が、急に出てきた僕の頬を捉えていたのだから。……だけど――
「……手を、出すな……」
「……あぁ?」
「……この人には……風奈さんには手を出すな!」
そう、ありったけの声で叫ぶ。……ほんと、似合わないな。こんな格好良い台詞は、どう考えても僕なんかには似合わない。それでも……それでも、こんな僕を護ろうとしてくれる人まで平気で見捨てられるほど、まだ落ちぶれちゃいないつもりだから。
「…………陶夜くん」
ほどなく、すぐ後方から届く声。……まあ、そうなるよね。突然、叫んだりなんてしたら。ただ、それはともあれ――
「……へぇ、いい度胸じゃん。まだ痛い目見たいってんならお望み通…………っ!!」
「……? 花本、さん……?」
ややあって、拳の音をパキパキと鳴らしつつそう口にする花本さん……だったが、その言葉が不意に止まる。そして、その視線は恐らく僕ではなく……えっと、いったいどうし――
「……わ、分かったよ! もう、こいつには関わらねえ! それでいいんだろ!」
そんな疑問の最中、突如そう言い残し脱兎のごとく去っていく花本さん。……えっと、ほんとにどうし――
……いや、今はいい。気にはなるけど、今は――
「……その、ありがとうございます……風奈さん」
そう、身体ごと振り返り頭を下げる。今、僕がすべきは感謝をおいて他にないだろうから。
その後、ややあって顔を上げる僕。すると、どういたしましてと優しく微笑む風奈さんの姿があった。




