神様へと祈りを込めて
「…………風奈さん」
「……私のせいで、人が……玲夜が……なのに、私だけが、こうしてのうのうと……」
そう、絞るような声で口にする風奈さん。そんな彼女の声は、身体はひどく震えて……今にも、崩れ落ちてしまいそうで――
……もちろん、分かっている。彼女の苦痛は、彼女の傷は、彼女だけのもの。僕なんかが、容易く分かった気になんてなっちゃいけないことくらい。それでも……分かる。きっと、彼女は――
――もう、とうに限界なんて越えているんだ。
……きっと、何度も考えたんじゃないかな。自分も玲夜さんの後を、と。それでも、これまで生きてきたのは玲夜さんのため。彼が、文字通り自身を捧げてまで救ってくれた命を……生涯を、彼女自身が投げ出すわけにはいかなかったから。
だけど……もう、限界なんだ。玲夜さんを彷彿とさせる僕と出会って……そして、好きになってしまったことで、苦痛はいっそう強度を増して彼女を苛んでいる。玲夜さんと良く似た――それでいて違う誰かと幸せになることに、僕なんかでは想像も及ばない罪悪の念に酷く苛まれ苦しんでいる。それこそ、不意に倒れて意識を失くしてしまうほどに。そして、このまま……このまま放っておいたら、きっと近い内に彼女は――
「……大丈夫です、風奈さん。僕に、万事お任せください」
「…………陶夜くん」
そう、じっと見つめ告げる。絶対に逸らさぬよう、悲痛に揺れるその瞳をじっと見つめながら。……まあ、こんな偉そうなこと言ってるけど、僕が何かできるわけでもないんだけど。だけど、彼女はふっと微笑み頷いてくれた。
その後、ほどなくゴンドラがそっと地上へと降りていく。その後、ややあってパークを後にし黄昏に染まる帰路を共にする。平時の彼女とはほど遠い悲しい微笑に、どうしようもなく痛む心をどうにか抑えながら。
それから、数時間後。
すっかり夜の帷が降りた頃、僕が訪れたのは住宅街のあの辺り――そして、目の前には例の路地裏がきちんと現れていて。……まあ、この時間なら大丈夫だと思ったけど。
そして、夜空に映えいっそう朱く輝く提灯に導かれるように進んでいくと、もちろん先にはあの神聖な鳥居。これまた、空の色と対を成すようにいっそう白が際立って。そんな聖なる入り口の前にて深く一礼し、ゆっくりと歩みを進めていく。そして――
「――お待ちしておりました、陶夜さん」
それから、ほどなくして――開けた視界に映るは、仄かに微笑み僕を迎えてくれる銀髪の少女。そんな彼女にそっと微笑み返事を――そして、徐に願いを口にした。




