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神様へと祈りを込めて  作者: 暦海


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虫の知らせ

 ――すると、そんなある日のことだった。



『――おや、まだ帰ってきていないのですか? 玲夜(れいや)さん』

『……うん。どうしたのかな』


 依月(いづき)神社の縁側にて、未だ一人で腰掛ける私に不思議そうに尋ねる光里(ひかり)。まあ、それもご尤も。すぐに戻ると言って、午前中に家を出た彼が夕暮れになっても帰ってこないから。


 とは言え、責める気なんて全くない。……ただ、心配なだけ。こんな事態は初めてだし……何より、虫の知らせ、と言うのかな……こう、どうにも嫌な予感が収まらなくて――



『――ごめん、光里。ちょっと出てくるね!』

『…………へっ?』


 そう伝え、バッと家を駆け出す私。もちろん、宛なんてない。それでも、じっとしてなんかいられなくて。



 そして、駆け回ることおよそ一時間。息も絶え絶えにピタリと足を止めた先は――いつからか、ずっと使われていない廃れた納屋で。



 さて、どうしてここに来たのか――それは、私自身ですら定かでなく。それでも……どうしてか、不思議と確信があった。玲夜は、必ずここにいると。……なのに、


『…………』


 思わず、足が竦む。恐らく……いや、間違いなくここにいる。だから、早くこの中に……なのに……どうしてか、動けない。どうしてか――


 ……いや、分かってる。あの嫌な予感が、ここに来ていっそう――それこそ、心臓が張り裂けそうなほど苛烈に強度を増しているから。


 それでも……うん、分かってる。ここで、逃げるわけにはいかない。ぐっと左胸を抑えつつ、震える足をどうにか押し出す。そして、数歩先の――なのに、果てしなく遠くに感じた納屋の前へと到着。そして、震える手をゆっくりと押し出し扉を――



『――――っ!!』


 刹那、私の全機能が停止する。……なのに、その光景は今でもはっきりと覚えてる。今でも、幾度となく脳裏に蘇る。薄暗い空間(なか)の一番奥――そこに、私の良く知る男の子……真っ赤な血を流し微動だにしない美少年、玲夜の姿が映ったその光景は。





 それから数日後――物静かな雰囲気の中、粛々と火葬が行われ彼は煙となって空の向こうへと旅立った。端整な容姿、そして柔和な人柄の彼を悼む声は多く、舞い上がる煙を見上げながら多くの人達が涙に暮れていた。


 ……どうして、玲夜が……いったい、誰が……そう幾度も頭を巡らすも、次第に止めた。もちろん、玲夜を殺した人間が憎くないはずはない。ない、けれど……けれど、犯人が分かったところでそれが何になるのだろう? もう、どうあっても玲夜は帰ってこないと言うのに。



 ――すると、しばらくして。ほぼ屍のように生きていた最中(さなか)、衝撃の事実が判明した。それは、町の人達数人による私の殺害計画。それも、どうやら随分と前から秘密裏にそういった話し合いが行われていたようで。何か惨事が起こる前に、化け物である私を始末するための話し合いが。


 そして、あの日――ついに、例の計画が実行へと移された。玲夜を、人質にとった。どうやら、私に直接仕掛けてくる度胸はなかったようで……まあ、だからこその化け物なんだろうけど。


 ともあれ、そういうわけで玲夜が――あろうことか、私の大切な恋人が利用された。そして、その意図は明白――彼を死なせたくなければ、私に自害しろと迫ることに他ならなくて。


 だけど、予定通りに進めていたであろう犯人達にとって予想外の事態が起きた。人質だった玲夜が、自ら命を絶った。あの時――私が到着した時、納屋には他に誰もいなかった。きっと、何かしらの理由で一時的にあの場を離れていたのだろう。そして、その間に玲夜は拘束を解き……自ら、その尊い命を――


 そして、そうなると――畢竟(ひっきょう)、確定することがある。それは、彼は――玲夜は、私のせいで命を絶ったということ。私が、自分の命より彼の命を優先する――それを分かっていたから、彼は自ら命を絶った。だから、これは……これは紛れもなく――



『……う、う……ゔ、ゔああああああああああああああああああぁっ!!!!』



 ――――直後、私の意識は途絶えたらしい。





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