風奈と玲夜
『――うわ、化け物が来たぞ!』
『ちょっと、近寄って来ないでよ!』
今から、一年ほど前のこと。
石畳の道を歩いていると、隅の方にて楽しそうにベーゴマで遊んでいた5人の男女グループ。みんな、私と同じくらいの歳の子たちで。私も入れてほしいな、なんて思いながら近付くも……まあ、こういう感じにみんな一目散に去っていくわけで。
そして、こういった光景はこの日に、今の子達に限ったことでもなく日常茶飯事。お陰さまで、私はこの町にてちょっとした有名人らしく……いや、ちょっとどころじゃないか。
――ところで、一年前というのは令和に来てからを含む私自身の体感としての期間であって、当然ながら時代としては100年ほどの開きが……うん、いらないよねこの説明。余計にややこしくなりそうだし。
ともあれ、大正においてはひょっとすると町一番の有名人と言って過言でないかもしれないこの私ではあるけれど……正直、皆目分からない。どうして、こんなにも怖がられているのか。あくまで主観ではあるけれど、鏡を見ても怖いとは全く……どころか、可愛い部類……いや、自分で言うのもどうかと思うけど。思うけども……それでも、怖がられるような容姿でないことは、きっと思い上がりでも何でもなく事実だろう。
ともあれ、理由は分からないまま――それでも、誰からも怖がられ避けられていた私。もちろん、人によって程度の差はあれど……それでも、誰にとっても私という人間が何かしらの悍ましき存在であることに変わりはなく。唯一、例外がいるとすればそれは神様でもある妹の光――
『――ねえ、ちょっと良いかな?』
『…………へっ?』
卒然、後方から届いた声。振り返ると、そこには短い黒髪を纏う円らな瞳の男の子。控えめに言っても美少年と言って差し支えないであろう、端整な顔立ちの男の子で。少し呆気に取られたまま話を聞くと彼は旅人で、どうやら迷ったらしく道を教えてほしいとのこと。……まあ、旅人だろうね。こんな目を惹く容姿の人、同じ町にいたら流石に覚えてないはずないだろうし。……ただ、何より驚いたのは――
『……あの、君……怖くないの? 私のこと』
『……へっ? なんで?』
そう、おずおずと尋ねる私。すると、きょとんとした表情で尋ね返す少年。そんな彼に、私は――
『……えっ、あの、どうしたの急に?』
突如、戸惑った声が届く。いや、突如も何も当然……急に、目の前の私がオロオロと涙を流し始めたのだから。……うん、化け物でなくともちょっと怖いよね。こんなの。
だけど、事情なんて何も知らないはずなのに、逃げるどころかそっと頭を撫でてくれる美少年。そして――
『……その、よく分からないけど……もう、大丈夫だよ』
そう告げる彼の声は、今までに経験のない陽だまりのような暖かさに満ちていた。




