僕に出来ること
「……心配ないですよ、陶夜さん。気絶しているだけですので。こちらまで連れていただき、ありがとうございます」
「……いえ、感謝していただくことなど……申し訳ありません、光里さん」
「……どうして、貴方が謝るのですか」
その後、暫くして。
風奈さんの額に手を添えつつ、穏やかな微笑でそう告げてくれる光里さん。……ふぅ、ほんとに良かった。
あの後――苦しそうに呼吸をしていた風奈さんは、間もなく卒倒。動転する心をどうにか抑え、申し訳ないとは思いつつも眠っているであろう光里さん下へ彼女を連れてきたわけで。
……ただ、それにしても……うん、起きていてくれて本当に良かった。それも、状況がはっきり分かるくらいに目も頭も冴えていたようで……ひょっとして、寝つけなかったのかな?
「……それで、光里さん。その……どうして、風奈さんは……」
そう、たどたどしく尋ねる。きっと、僕のせいなのだろう。あのタイミングだし。尤も、情けないことにその理由は分からないけど……それでも――
「……そう、ですね……まあ、おおかた察してはいますが……ですが、すみません。今、私から申し上げて良いのかどうかは定かでないので……」
「……そう、ですか。いえ、ありがとうございます光里さん」
すると、少し顔を伏せ答える光里さん。だけど、もちろん謝る必要なんてない。むしろ、責められていないのが申し訳ないくらいで。
そして……やはり、僕のせいなのだと改めて確信を覚える。寝つけなかったのかも、なんて言ったけど……本当は、きっと違うのだろうと。きっと、このような事態のために眠らずにいてくれたのだろうと。
と言うのも――ここに来て扉をノックした際、驚くほどに早く応対してくれたし、その表情に驚いた様子はなかった。つまりは、こういう事態を想定していたということ。僕と二人でいた、あの状況でこうして風奈さんが倒れてしまうという事態を想定していたということで。
その後、お任せくださいと言ってくれた光里さんに頭を下げ部屋を後にする僕。重ね重ね本当に申し訳ないけれど……今、あの場で僕に出来ることは何もない。だから――
ほどなく、一人縁側に戻る僕。そして、右ポケットからスマホを取り出し……少し、遅いかな? 眠っていたらごめんなさい――そう、自己満足でしかない謝意を心の中で呟く。そして、数度のコール音の後――
『……このような時間に、本当に申し訳ありません。ですが、どうしても教えていただきたいことが――』




