リフレイン
「……その、ほんとにごめんね陶夜くん。私、寝てたから気付かなくて……」
「いえ、お気になさらないでください風奈さん。他でもない貴女の寝顔を間近で見られて、僕はとても幸せでしたし」
「……うん、陶夜くんって時々さらっととんでもないこと言うよね」
「……へっ?」
翌朝、午前六時頃。
言葉の通り、甚く申し訳なさそうに告げる風奈さん。だけど、謝る必要なんてない。間近で見たと言っても最初だけで、すぐ恥ずかしくなって背中を向けちゃったけど……それでも、とても幸せだったことには変わりないし。……ところで、とんでもないことってなんだろ?
「……それで、陶夜くん、私も夢現だったし、ちゃんとは覚えてないけど……あの時、私が布団を掛けなかったらずっとあのままで寝てたよね? ダメだよ、そんなの。大丈夫? 風邪とか引いてない?」
「あっ、はい大丈夫です! 僕、こう見えて人生で一度も風邪とか引いたことないので!」
「……いや、とんでもない大嘘ぶっこむね」
そう、心配そうに尋ねてくれる風奈さん。……うん、流石にそれは嘘……どころか、昔はわりとしょっちゅう引いてたっけ。
まあ、それはともあれ……うん、やっぱり。目が覚めたら、眠る前にはなかったはずの布団が掛かっていたので本当にびっくりした。ひょっとして、僕が無理やり風奈さんの布団を……と不安になりさっと向き直るも、それにしては二人にほぼ均一に掛かっていたのできっと僕を気遣って風奈さんが掛けてくれたのだろうと……うん、本当に申し訳ない。
あと、今更ながら……と言うことは、どのくらいかは分からないけど、僕らは同じ布団の下で眠っていたことに……うん、すっごい恥ずかしい。
「――本当にありがとうございます、風奈さん。もし良ければ、光里さんにも宜しくお伝えいただけたらと」
「うん、ちゃんと伝えとくね。それじゃ、また後で」
「はい、それではまた」
それから、ほどなくして。
鳥居の前にて、穏やかに挨拶を交わす僕ら。柔らかな風がそっと頬を撫でる、なんとも心地の好い朝で。
ところで、折角だしここから一緒に登校しようと風奈さんは言ってくれたのだけど、申し訳なくも丁重にお断りして。昨日と今日では持ち物が違うので、どうしても一度家に帰る必要があったから。
ともあれ、鳥居を潜るとそこは例の住宅街。こうして出てこれた以上、もちろんそこには人ひとりいないようで。……まあ、早朝だしね。
そして、いつもと違う帰り道を歩いていく最中、僕の脳裏にはあの言葉――どこか悲痛を帯びた声で届いたあの言葉が、今もずっとリフレインされていて。
『…………ごめ、んね……玲夜』




