微かな声
「……それじゃ、そろそろ寝よっか」
「そうですね、風奈さん。時間も時間ですし」
「……はぁ、流石に眠いですね。全く、私は明日も学校だというのにこんな時間まで付き合わせて」
「いや、寝ていいって言ったのに貴女が勝手に起きてたんだよね? まだ勝負は終わってないとか言って。あと、明日も学校なのは私達もだから」
それから、数時間後。
居間にて何度目かのボードゲームを終えた後、軽く瞼をこすりつつそう口にする風奈さん。視線を移すと、軽く欠伸をしつつ答える光里さんの姿が。まあ、ゲーム中もところどころで船を漕いでたしね。
ともあれ、当然ながら誰からも異論はなく後片付けをする僕ら。そして、また明日とご自身のお部屋に向かう光里さん。そんな彼女にまた明日と答え、僕もお部屋――用意してくださったお客さん用のお部屋に向かうことに。なので、その前に風奈さんに――
「…………あれ?」
また明日と声を掛けようとするも、代わりに零れたのは二文字の呟き。と言うのも――
「……ああ、またですか。まあ、よくあることなので気にしなくていいですよ」
すると、徐にこちらへ戻ってきつつそう口にする光里さん。そして、端の方にある毛布をそっとお姉さんに掛けてあげて……うん、なんだか微笑ましいな。
ともあれ、起こさないようそっとおやすみと声を掛ける。正直、その寝顔をもう少し見ていたい気持ちもあるけど……でも、起こしても悪いし僕もお部屋へ――
「…………へっ?」
そっと立ち上がろうとして、不意に止まる。と言うのも……すっと伸びてきた細い手が、僕のTシャツの裾をそっと摘んでいたから。
「……あの、風奈さん……」
そう、ポツリと呟く。でも、返事はない。まあ、寝てるんだし当然なんだけど。……ただ、これはどうしたもの――
「……ふふっ、なんとも仲睦まじいことです。それでは姉さんのことをお願いしますね、陶夜さん?」
「……へっ? あ、ちょっと光里さ……」
すると、なんとも愉しそうな笑顔でそう言い去っていく光里さん。……えっ、行っちゃうの? お願いされても、この状況でいったい僕にどうしろと――
「…………ごめ、んね……」
「……へっ?」
すると、そっと鼓膜を揺らす微かな声。もちろん、未だ僕の裾を掴む風奈さんの声で。……だけど、その声はどこか――
「…………ごめ、んね……玲夜」
「…………へっ?」




