特別企画?
「――じゃあね、陶夜くん。また明日」
「またお会いしましょう、陶夜さん。今度は二人っきりで」
「なんでだよ」
「あはは。はい、またお会いしましょう風奈さん、光里さん」
それから、一時間ほど経て。
神聖な鳥居の前で、仲睦まじいお二人を微笑ましく思いつつ答える僕。もう、すっかり夜の帷が下りていて。
さて、あの後だけど――お説教はほんの数分、あとは他愛もない話に花を咲かせたり、最近知ったとというオセロを楽しんだり。ただ、ルールとかはまだしもオセロの概念ごと最近知ったというのはなかなかに意外……いや、そうでもないのかな? 最近は新しいタイプの娯楽に溢れていて、昔ながらの遊びを耳にする機会はそうそうないのかもしれないし。
ともあれ、再び彼女らに一礼しゆっくりと向きを変える。そして、眼前の鳥居に一礼しゆっくりと足を――
「…………あれ?」
「ん? どうかした陶夜くん?」
「……あ、その……どうしてか、中に入れなくて……」
ポツリと声を洩らす僕に、きょとんと首を傾げ尋ねる風奈さん。まあ、それもそのはず。彼女にとっても、このような事態を見るのは恐らく初め――
「……ああ、もしかしてまだ人がいるんじゃない? あの辺りに」
「……ああ、なるほど」
すると、ややあって答える風奈さん。……なるほど、そういうことか。いや、そもそもよくよく考えたらそれしかないか。
と言うのも、依月家に来る分には周囲に誰もいなければどこからでも可能とのことだけど、外に出る分には違うようで。僕だけでも、風奈さんだけでも、はたまた一緒でも、どうしてか神社から外に出るのはあの場所――あの路地裏が出てくる住宅街の辺りだけのようで。……うん、ほんとなんでだろうね。
「まあでも、そういうこともあるよね。しばらくしたら出られるようになるだろうし、それまではお喋りでもしてようよ」
「あっ、はい、ありがとうございます!」
すると、ニコッと微笑みそんな提案をしてくれる風奈さん。そんな彼女が示したのは、風鈴の響く穏やかな縁側。普段、二人でよく話しているとりわけお気に入りの場所で……うん、油断するとしばらくどころかずっと話してしまいそ――
「……あの、お話を進めているところ恐縮ですが……たぶん、しばらく経っても出られないと思いますよ?」
「「…………へっ?」」
すると、言葉の通り些か申し訳なさそうに告げる光里さん。いや、もちろん申し訳なく思う必要なんてないのだけど……でも、それはいったいどういう――
「……実は、つい先ほど知ったのですが……なにやら本日、某SNSの人気インフルエンサーによる『みんなで走ろう、夜の狭い狭い住宅街』という企画がフォロワー向けに催されているようで」
「なにそのとんでも企画!?」
いやなにそのとんでも企画!? 道路交通法とか大丈夫なの!? ……あと、狭いを強調しすぎじゃない? 確かに広くはないけど、そこまで言うほど狭くも……いや、そんなことより。
「……あの、光里さん。それは、具体的にいつ頃までとか分かります……?」
「……えっと、要項によると本日の日付は回ってしまうようで」
「「…………」」
そんな彼女の回答に、茫然とする風奈さんと僕。……うん、万事休す。と言うか、僕も甘かった。こんなとんでも企画は予想外にしても、何からの理由で出られなくなる可能性くらいは事前に考慮しておくべきで――
「……うん、こうなったら仕方ないね」
「……へっ?」
すると、隣で呟くようにそう口にする風奈さん。そして、未だ茫然とする僕をじっと見つめ言葉を紡ぐ。
「……その、もし良かったら……泊まってく?」




