まさかのお呼ばれ?
「……ふぅ、ようやく始まりそうですね。この世界がボーリング小説だったらとうにページを閉じてますよ、読者の方々」
「……いや、これがボーリング小説だったらそもそも前振りが長すぎるでしょう」
その後、ソファーにて何とも突飛なことを口にする光里さん。いや、だったら前振りが長すぎるでしょう。そもそも、冒頭から謎の路地裏が出てくるボーリング小説なんてな……いや、あれが冒頭かも知らないし、そもそも僕なんかが主人公の小説なんてあるわけないか。いったいどこに需要があるのかという――
「――ちょっと二人とも! ちゃんと見ててよ私の投球!」
すると、前方から届く不満げな声。どうやら、僕らが話に夢中になってて見ていないと思ったみたいで。……まあ、あながち間違ってはないけど。
ともあれ、仰せの通り風奈さんをじっとみつめる僕ら。まあ、もちろん最初からそのつもりだったけども。そして、記念すべき第一投を――
「……すごいですね、風奈さん。10年に一度の奇跡だとしても」
「……ええ、お見事です姉さん。100年に一度のまぐれだとしても」
「うん、二人とも後で私の部屋に来て?」
その後、ほどなくして。
最大級とも言えよう光里さんと僕の称賛に、満面の笑顔でそう口にする風奈さん。……おっと、まさかの唐突なお部屋へのお呼ばれ。うん、今からもう緊張して……えっと、菓子折りとか持っていった方が良いかな?
……ただ、どうしてだろう。心做しか、瞳の奥が全く笑っていない気がするのは。
さて、そんなちょっぴり怖い風奈さんの結果は――なんと、ストライク。それも、一投目で。……うん、ほんとびっくりです。まさか……
「……まさか、あんな振りかぶってた人がちゃんと下から投げられるように……うん、良かった」
「声に出てるけど!? あと驚くとこそこ!?」
沁み沁みと感動していると、不意に鋭いツッコミが響く。あれ、声に出てた? しまった、ついうっかり本音が――
「……じゃあ、次は陶夜くんだけど――あれだけ馬鹿にしてくれたんだし、それはそれはさぞかし見事な投球を見せてくれるんだよね?」
「……えっと、それはどうでしょう」
そう、ちょっぴり怖い笑顔で尋ねる風奈さん。どうやら、本日はご機嫌ななめのご様子……うん、ここはどうにか雰囲気を変えなくては。でも、どうやって…………あっ、そうだ!
「――それでは、霧崎陶夜選手。大きく振りかぶり第一投を――」
「いや振りかぶらないで!!」




