面白い冗談?
「――さて、誰から投げる? 私? 光里? それともロリコンくん?」
「……いや、風奈さん。今この場にロリコンくんはいないかと」
「あははっ、面白い冗談を言うんだね陶夜くん! あははははっ」
「そんな面白いこと言いました!?」
それから、あれやこれやで十数分後。
戸惑う僕の返答に、高らかな笑いと共に言い放つ風奈さん。いや、そんな面白いこと言いました? 僕。全く面白くもなければ、冗談でもなかったと認識しているのですが。
まあ、それはともあれ……くじ引きの結果、最初に風奈さん、次に僕、そして最後に光里さんという順番に。ちなみに、このくじ引きのためだけにわざわざご立派な箱まで作って……うん、なにしてるんだろうね僕ら。
「さあ依月風奈選手。大きく振りかぶり第一投を――」
「いや振りかぶらないで!!」
レーンの前で大きく振り上げようとする風奈さんの手をパッと掴み留める僕。いや振りかぶらないで!! 怪我するから、肩外れるから!! ……いや、肩じゃなくて関節かな? まあ、この文脈ならどっちでも同――
「――ふふっ、積極的だね陶夜くん?」
「……へっ? あ、すみません!」
「ありゃ、残念。折角の恋人気分だったのに」
刹那、慌てて手を離す僕。すると、なおも愉しそうな笑みで僕を揶揄う風奈さん。……全く、人の気も知らないで。
「ふふっ、随分とイチャついてましたね二人とも。全く、見てるこっちが恥ずかしくなりますよ」
「……いや、全然恥ずかしそうに見えないですけど」
その後、ややあって席に戻るとこちらも愉しそうな笑みで告げる銀髪の少女。……いや、恥ずかしがってませんよね?
ちなみに、僭越ながらついさっきまで風奈さんにフォームの指導をしていたわけで。まあ、指導と言ってもほんとに大したことはしてないんだけど……ともあれ、その時の様子とその前のあれがイチャついてるように見えたみたいで……うん、ほんと恥ずかしい。
ともあれ、風奈さんの投球を拝見すべく再び視線を……ん? ……いや、気のせいかな? いや、でも――
「……あの、風奈さん。投球前に大変申し訳ないのですが……その、貴女が手になさっているそれは……」
「ん、これ? うん、もちろんマイボールだよ?」
「嘘でしょ!?」
「ん? どしたの陶夜くん。孔雀が水鉄砲を食ったような表情して」
「全くイメージが掴めないのですが!? どんな表情ですかそ……いや、それよりマイボール持ってたんですか風奈さん!?」
「へっ? そんなの当然じゃん。私くらいになれば」
「振りかぶってた人がなに言ってんですか!? 馬鹿みたいに振りかぶってた人が!!」
「今日の陶夜くんなんか酷い!!」
とまあ、こんな具合に馬鹿な応酬をする僕ら。そっと視線を移すと、何やら呆れた表情でこちらを見つめる光里さん……うん、ほんと何してるんだろうね、僕ら。
「……ほんと、陶夜くんが急に話し掛けてくるからすっかり集中が途切れちゃったよ」
「……あ、それについてはすみません……」
「……全く、集中が切れたせいでチェンジアップが落ちなかったらどう責任とってくれるの?」
「うん、それは僕のせいじゃないですね」
そう、何とも不満げに話す風奈さんに最後は即答する僕。いや落ちるとかないですよ。そもそも床を転がるのに落ちる余地とかないですよ。あと……ひょっとして、野球好きなのかな? 風奈さん。
ともあれ、そんなこんなで馬鹿なやり取りをしていると、すぐ後ろからポツリと声が。
「……なかなか始まりませんね、ボーリング」




