さあ、今日は投げるよ!
「――さあ、今日は投げるよ陶夜くん!」
「……あの、風奈さん。そのフォームでは間違いなく危険かと」
それから、二週間ほど経て。
夏休みが終わり二学期に入るも、尚も茹だるような暑さの続く九月上旬。
空の手で投げるフォームを披露しつつ、朗らかな笑顔で告げる風奈さん。もちろん、その仕草も笑顔も全てがとても愛らしい。愛らしい、のだけども……それ、ピッチャーのフォームですよね? 間違いなく危険ではないかと……主に、貴女の肩が。
さて、今いるのはリア充の方々ご用達のレジャー施設たるボーリング場……あれ、偏見かな?
あっ、余談ですが風奈さんの夏休みの宿題は二人で分担してどうにか最終日に終わらせました。その際、ご自身のことを追い込まれると本気出すタイプなんて言ってたけど……うん、願わくば追い込まれなくとも本気を出していただけたらと。
「――それにしても、本当に楽しみです。初めてなので、是非とも手取り足取り手解きいただけたらと存じます、陶夜さん?」
「あっ、はいもちろんです! ……ですが、正直のところ僕もほとんど経験がなく……なので、きちんとお教え出来るかどうか……」
「なるほど、そうでしたか。つまりは、陶夜さんもほぼ初めてと考えて差し支えないのですね?」
「……はい、恥ずかしながら……すみません」
「いえ、羞恥も謝罪も必要ありません。でしたら、共に励まし合い上達していけば良いだけのことです。二人で協力して、一歩ずつ階段を登って行きましょう。そう、成長へと導く大人の階段を――」
「――いやなんかおかしいよねぇ!!」
すると、不意に届いた叫びの声。瞬間、周囲の視線がいっそう集まった気もするけど、それはともあれ――
「……あの、どうかしましたか風奈さん?」
「いやおかしいよ陶夜くんも!! 何がかはよく分かんないけどどう考えてもなんかおかしいよ!!」
「いや分かんないんかい」
いや分かんないんかい。何がおかしいのか分かんないんかい。じゃあやっぱり何もおかしくないんじゃ――
「……とにかく、これ以上陶夜くんを揶揄うなら帰ってもらうよ……光里」
すると、呆れたように告げる風奈さん。一方、告げられた側――光里さんは、何のことかといった様子できょとんと首を傾げ微笑む。まあ、揶揄っていた様子もなかったしね。むしろ、どうして風奈さんはそう思ったのだろう?
ともあれ、今日は風奈さんの妹さんたる光里さんも一緒で。放課後、帰り道にボーリングに行こうという話になり施設に向かっていると、なんと偶然にも光里さんと遭遇。そして、どこに行くのかという彼女の問いにボーリングと答え、それなら是非私もという流れでこうして三人でこちらに来たわけでして。うん、なんか新鮮で楽しい。楽しいの、だけど――
「……あの、ところで光里さん。そのご格好は、いったい……」
今更ながら、逡巡しつつ問いかけてみる。いや、人様の格好にどうこう言うつもりはないけど……でも、流石に何も言わずにはいられなくて。俗世も俗世たるこの場所に、さながら天照様のような格好の子がいたら。
「……へっ? ひょっとしてご存じないのですか陶夜さん? これは神御衣と呼ばれる、文字通り神様の纏う衣装で――」
「……いえ、そういうことではなくてですね」
すると、またまたきょとんと首を傾げ尋ねる光里さん。うん、大変可愛らしいのだけど……だけども、なんと言うか……ただ、すっごく目立つというか……さっきから、不思議そうな視線がちらほら届いているというか……あと、神御衣っていうんだね、それ。勉強になりました。
……まあ、そうは言っても――
「……ですが、すごくお似合いです光里さん。今日に限った話ではありませんが、とてもお綺麗です」
「……へっ? あっ、その……ありがとう、ございます」
そう伝えると、さっと顔を逸らし答える光里さん。僕自身、目立つのは相当に苦手だけど……でも、それで他の人の服装にどうこう言うのも違うよね。本当に駄目な場所もあるけど、少なくともここでは何を着ても良いわけだし。……しかし、それにしても本当に良く似合――
「……ねえ陶夜くん、今から私も巫女に着替――」
「すみませんそれは控えてください」
「ひどくない!?」
その後、僕の返答に差別だなんだと抗議を続ける風奈さん。いや、何を着ても良いと言った手前どうかとも思うのですが……その、奇抜な方はせめて一箇所につきお一人までにしていただけると。




