図書館デート?
「わぁ、やっぱりいいねここは」
「はい、僕も大好きです。なんだか落ち着きますよね」
それから、数十分経て。
声を抑えつつやり取りを交わす僕ら。今いるのは、郊外に在する図書館――大正時代に創設され、100年以上の歴史を持つ素朴な雰囲気の図書館で。
さて、ここを訪れた理由はというと――まあ、単純に家だと集中できないとのこと。家だとついついテレビやスマホといった目新しいものに気が取られてしまうとのことで……まあ、それは分からなくもないけど。ないけども……ただ、スマホはまだしもテレビって目新しいのかな?
――ともあれ、宿題開始からおよそ10分。
「……ふぅ、疲れた。うん、今日の分は終わりかなぁ」
「……いや、流石に早すぎません?」
バタリと机に突っ伏し、間延びした声でそんなことを言う風奈さん。……いや、流石に早すぎません? 疲れるのはともかく、今日の分まで使い切るのは早すぎません? これだと、夏休みどころかいつまで掛かるか――
「――さあ陶夜くん! 休憩がてらまだ見ぬ宝を探索しに行こう!」
「休憩がてら!?」
すると、パッと立ち上がりそんなことを宣う風奈さん。それでも、場所が場所だけに声は抑えているのは流石だけど。……ただ、それはともあれ――
「……そうですね、少しだけなら」
「うん! じゃあさっそくレッツゴー!」
そう答えると、弾けるような笑顔でそう言い放つ風奈さん。そして、何とも軽い足取りで宝――膨大な数の魅力溢れる書物の方へと向かっていく。……うん、まあいっか。楽しそうだし。
「……うわぁ、やっぱ色々あるねえ。うーん、どれを読もうかなぁ……」
「ふふっ、そうですね風奈さん」
その後、ほどなくして。
目を輝かせながら、大きな本棚のに並ぶ書物達を眺める風奈さん。そんな彼女の姿に、つい微笑ましくなってしまう。
でも……今更ながら、本当にすごいなぁと思う。古今東西の魅力的な書物達が、場所を越え時を越えこうして一堂に会する光景は、もはや奇跡と言う他なく……そして、そんな奇跡を実現なさった想像も及ばない数の方々の努力を思うと本当に頭が下がる。それこそ、床に額をこすりつけたくなるほどで――
「……あの、なにしてるの? 陶夜くん」
「…………へっ?」
すると、ふと降りてくる戸惑いの声。パッと顔を上げると、そこには声音に違わぬ戸惑いを浮かべる風奈さんの表情……うん、そうなるよね。突然、隣で床に額をこすりつけたりしてたら。
「さて、先ほどご覧になったかもしれない幻覚はさておき、風奈さんはなにか愛読してる本などありますか?」
「あれ、なかったことにしようとしてる? あんな衝撃映像を。忘れないよ? たぶん一生」
ともあれ、仕切り直しとばかりに問い掛ける僕。そして、そんな僕に呆れたように答える風奈さん。あっ、忘れてくれないんだ。それも、一生。うん、ならば仕方ない。かくなる上は――
「……えっと、記憶消去に関する本は――」
「今日の陶夜くんなんか怖いよ!!」




