依月神社
「…………わぁ」
それから、ほどなくして。
開口一番、感嘆の声が洩れる。そんな僕の視界には、社殿へと続く風情漂う砂の境内。それほど広くはないけど、むしろそれが良い。……こう、上手く言えないけどそれが良い。
そして、四隅には柔らかな陽光を受け仄かに輝く木々や草花。そして、木々のところどころから届く小鳥の囀りが優しく耳をくすぐる。まるで桃源郷かと思うくらい、そこは穏やかな幸せに満ちた素敵な世界で……まあ、行ったことないけども、桃源郷。
ともあれ、夢現といった意識の中、ゆっくりと歩みを進めていく。左手には手水舎、そして前方には、二匹の狛犬に見守られるようにひときわ存在感を放つ荘厳な社殿。……うん、折角だし――
そういうわけで、二度深く礼をし、二度手を叩く。そして再び一度深く礼を――二礼二泊一礼、神社の正式な作法だ。
……あれ、でも何をお願いしようか……うん、何でも良いか。とりあえず、家族の健康でも――
「…………え?」
「……へっ?」
すると、ふと届いた微かな声に驚く僕。……いや、驚いているのはお相手の方かも。ともあれ、徐に顔を動かし視線を向ける。声が聞こえた方――少し遠くの、右手の方へと。すると、そこには――
「…………きみ、は……」
鮮やかな黒髪を纏う、ハッと息を呑むほどに見目麗しい少女がこちらをじっと見たまま佇んでいて。
「……あっ、えっと、その……」
刹那、ハッと我に返る僕。……いや、見蕩れてる場合じゃない。ひょっとして、無断参拝禁止だった? だとしたら、この状況はまさしく――
「その、すみません知らなかったんですなのでどうか警察には――」
「…………へっ? あ、いやしないよ!? そもそも、ここ神社だし!」
「……へっ? あ、そうです、か……良かった」
何はともあれ不法侵入に対する謝罪と言い訳をしようとするも、むしろ彼女の方が慌てた様子で否定をしてくれる。……そっか、うん、良かった。
その後、改まった様子で僕をじっと見る美少女。そして、パッと花のような笑顔を見せて――
「――ともあれ、初めまして。私は依月風奈。ここ依月神社の巫女さんです!」
そう、朗らかな声音で告げる。……依月、神社……うん、やっぱり聞いたことがない。まあ、それはともあれ――
「……えっと、初めまして。僕は、霧崎陶夜です。えっと、高校一年生です」
「……陶夜くん、か。うん、宜しくね陶夜くん!」
すると、僕の名前を呟きそう言い放つ依月さん。……えっと、名前? 苗字じゃなくて? いや、もちろん嫌なわけじゃないけど、流石にちょっと驚いて。だって、初対面でいきなり……いや、それともこれが普通なのかな? 最近の若い人達はとっては。
……まあ、それはそれとして――
「……あの、依月さ――」
「あっ、風奈でいいよ。私と陶夜くんの仲なんだし」
「どんな仲!?」
思いも寄らぬ依月さんの言葉に、思わずツッコミを入れる僕。……そう言えば、初めてかも。ツッコミを入れたのなんて。いや、でも実際それくらい驚愕で……えっと、初対面……ですよね? そもそも、彼女自身初めましてって言ってたし。……まあ、それはともあれ。
「……あの依月さ…………あの、風奈さん。その、以前からありました? こちらの神社」
そう、躊躇いつつ尋ねる。ちなみに、言い直したのはお名前――苗字の方で呼ぶ最中、あからさまにプイと顔を背けたから。そして、もしやと思い緊張……本当に緊張しつつお名前――名前の方で呼ぶと、やれやれ仕方ないといった笑顔で再びこちらを向いてくれて……うん、まあ、その方が良いなら良いんだけど……うん、やっぱり恥ずか――
「……ふふっ、よく気付いたね陶夜くん。何を隠そうこの神社、私が呪文でちゃちゃっと出しちゃったんだよ」
「…………ん?」
ふと、思いも寄らない返答が届く。見ると、いつの間にやらその手には可愛らしいステッキが。そして、戸惑う僕を余所に再び口を開いて――
「――巫女とは、世を忍ぶ仮の姿。その正体は……なんと、地球を救うべくこの時代へとやって来た魔法少女なのです!」
そう、何とも晴れやかな笑顔で告げる。うん、結局ほぼ何も分からない。だけど、そんな中で一つだけ分かったことは――
「――あ、すみませんお邪魔しました」
「ドン引きの笑顔で立ち去ろうとしないで!!」




