はぐれた?
「――いやーやっぱり勝負の味は格別だねっ」
「ははっ、それは良かったです」
その後、ほどなくして。
賑わいの中に戻り、ほのぼのとそんなやり取りを交わし歩く僕ら。彼女の言う勝利の味とは、もちろん例の最後の一つのことで。……うん、もうすっかり冷めちゃってたけど……でも、きっとそういう問題ではないのだろう。いずれにせよ、楽しそうで何よりです。
ところで……賑わい、とは言ったけど、一時間ほど前――公園に行く前ほどの往来は、今はもうなくて。もう帰っちゃった――わけではきっとなくて。きっと、移動したのだろう。もうすぐ始まる、祭りにおける定番たるあの行事のた――
「…………あれ?」
ふと、ポツリと呟く。と言うのも――
「……あの、風奈さん……?」
そう、茫然と尋ねる。だけど、返答など届くはずもなく。だって、先ほどまで隣にいたはずの彼女がどうしてか――
「――風奈さん!」
刹那、声と共に駆け出す。はぐれた? いつの間に? 確かに、さっきまでは……いや、そんなことはいい。とにかく、まずは彼女を見つけなきゃ!
その後、しばし駆け回る僕。幸い、今は往来が少なく誰かにぶつかる心配はほとんどない。だけど……だからこそ、どうしてはぐれてしまったのかが――
「――っ!! 風奈さん!」
卒然、叫びを上げる僕。……いや、この距離だし叫ばなくても良かったんだけど、つい。でも、ともあれ見つかって良かっ――
「…………えっと……あたし?」
「…………へっ?」
刹那、唖然と声を洩らす僕。だけど、驚いているのは僕だけでなく――
「……えっと、人違い、だと思うんだけど。あたし、ふうなって人じゃないし……」
「……あ、その……すみません……」
半身ほど向きを変え、甚く戸惑った様子で告げる少女。……まあ、それはそうだよね。彼女が、風奈さんでなければ。そして、実際に風奈さんじゃないのだろう。一人称がいつもと違うし……それに、こうして見ると少し違うし。
ただ……ほんとに、似てるなぁ。……いや、だから間違えて良いわけもないんだけど……それでも、後ろ姿だけじゃほぼ……それに、こうして顔を見てもほんとにそっくりで。それこそ、出会った頃だときっと見分けがつかなかっ……いや、僕の目が悪いのかな?
「……あの、君――」
「――あっ、はい仰る通り人違いです本当にすみませんでした!」
突如、彼女の言葉を遮り謝意を述べる僕。……しまった、よくないよねこういうの。ただでさえ失礼なことをしてしまったのに、より不快にさせ――
「あっ、そうじゃなくて……その、もしかして君、どこかで会ったことある? あたしと」
「……へっ?」
「……その、どっかで見たことあるかな、って。……でも、やっぱり気のせいかな。それじゃ、あたしはもう行くね。友達待たせちゃってるから」
「……あ、えっと……はい」
すると、そう言い残し軽く手を振り去っていく少女。一方、そんな彼女を茫然と見送る僕。……えっと、会ったことない、よね? たぶん、あったら覚えてると思うし。……ただ、それにしても本当に――
「――あっ、陶夜くん!」
「……あっ」
そんな思考の最中、不意に届いた明るい声。確認せずとも分かる、僕のよく知る大好きな声。ゆっくりとその方向――声の方向へと向き直り、徐に口を開き言葉を紡ぐ。
「……よかった、本物の風奈さんだ」
「偽物がいたの!?」




