夏祭り
――それから、三週間ほど経て。
「……うん、やっぱりいいよね、こういうの」
「はい、いつ来ても心が和みますね」
賑わう川沿いの道を歩きながら、ほのぼのとそんなやりとりを交わす僕ら。見渡すと、そこには夜空に映える数多の提灯や個性豊かな数多の屋台――そして灯りに照らされいっそう輝く人々の笑顔が。それは、ずっと見ていたいと思えるような――見ているだけで幸せを分けてもらえるような、優しい温もりに満ちた光景で。
さて、もはや説明不要かとも思うけど――今、僕らがいるのは川沿いにて毎年催されている夏祭りの会場で。
「ねえねえ陶夜くん、あの丸いのなにかな!? なんか、すっごいいい匂いがするけど」
「……へっ? ああ、タコ焼きですね。人によって好みはあると思いますが、僕は大好きです」
「そっか! じゃあさっそく買っちゃおう!」
その後、他愛もない話に花を咲かせつつ賑わいの中を歩いていると、ふと立ち止まり尋ねる風奈さん。弾けるようなその笑顔に、思わず微笑ましくなってしまう。
……ただ、それはそうと――
「……あの、風奈さん。確か、お祭りにはよく参加していたと仰っていましたよね?」
「うん。それがどうかした?」
「あ、いえ……」
僕の問いに、きょとんと首を傾げ尋ね返す風奈さん。うん、すっごい可愛い……のだけど、それはそうと……そっか、知らなかったんだ、タコ焼き。お祭りではわりと定番だと思うんだけど……うん、まあいっか。
「……うっわ、めっちゃ美味しい。誰が作ったんだろこれ。エジソン?」
「……いや、流石にタコ焼きまでは発明していないかなと。ですけど……はい、ほんとに美味しいですね」
その後、賑わいから少し離れ公園へと移動――そこの小さなベンチにて、先ほど二人で購入したタコ焼きを分け合う僕ら。まだ他にも何か食べるだろうし、最初から食べ過ぎないようにとのことで二人で一つを分け合うという形になって。
ともあれ……うん、ほんと美味しい。ふわふわの生地とタコ、そしてソースと鰹節の相性が何とも絶妙で……うん、止めよ。食レポ下手なのバレるし。
でも、こんなにも……それこそ、今まで食べたタコ焼きの中で一番とさえ思えるのはきっと、一緒に食べる先輩の笑顔が――
「……ねえ、陶夜くん。これ、どうしよっか?」
「……へっ?」
そんな感慨の最中、ふとそう尋ねる風奈さん。彼女の言う『これ』とは、同じ数を分け合った末ポツンと一つ残ったタコ焼きのことで。まあ、9個入りだったしそうなるよね。なので――
「ああ、どうぞ召し上がってください風奈さん。僕としては、元よりそのつも――」
「そんなの認められるかぁ!!」
「ええっ!?」
「……全く、陶夜くんが優しいのは知ってるけど、そういうのは良くないなあ。遠慮なんてしないで、譲れないものは譲れないと言わなきゃダメだよ? だから、この最後の一つをどちらが手にするのか……それは、厳正に勝負にて決めましょう!」
そう、ビシッと指を差し告げる風奈さん。うん、僕が優しいかどうかはともかく……いや、遠慮とかしてないですよ? 確かに美味しかったけど、別に譲れないわけじゃない……と言うか、むしろ貴女に食べていただきたいわけでして。
ただ……うん、この様子だと言っても仕方ないんだろうな。なので――
「……はい、分かりました風奈さん。それで、勝負というのは……」
何はともあれ、そう尋ねてみる。すると、待ってましたと言わんばかりにニコッと笑う風奈さん。そして――
「うん、その大事な大事な決戦方法とは――無論、だるまさんが転んだです!」
「二人で!?」




