やっぱり違和感?
――すると、そんなある日のことだった。
「ところで、陶夜くん。今日から新しいアルバイトの子が入るから、陶夜くんが教えてあげてほしいんだ」
「…………へっ?」
開店準備の少し前、休憩室にて柔和に微笑み告げる丸眼鏡の男性。彼は松橋さん――当カフェ『月乃音』の店主さんで、僕が初めて足を踏み入れた際、笑顔で迎えてくれたあの男性で。
ともあれ……へっ、急に? いや、もちろん不満なんてない。一緒に頑張る仲間が増えることに、何ら不満なんてない。ただ……僕の知る限り、松橋さんの性格ならもっと事前に言っておいてくれそうなもの……なので、こんなにも突然だったのが意外で――
「――それじゃ、紹介するね」
「……へっ?」
すると、僕の困惑を余所に続けて話す店主さん。……えっ、もうそこにいるの? あの、心の準備がまだ……あと、心做しか僕を見る店主さんの笑顔が何とも楽しそうで――
「――初めまして、霧崎陶夜くん。今日からこちらでお世話になる、依月風奈と申します! 宜しくね、陶夜くん?」
そう、朗らかな笑顔で話す見目麗しき少女。一方、あまりの衝撃に声も出ない僕。……うん、色々聞きたいことはある。あるのだけど……ともあれ、ひとまずは――
「……いや、その挨拶はおかしいでしょ、風奈さん」
「あははっ、いい反応だね陶夜くん! いやー折角だしびっくりさせたいなって」
「……いやまあ、びっくりはしましたけど……」
そう告げると、何とも楽しそうな笑顔で答える風奈さん。いやまあ、びっくりはしましたけど……でもまあ、楽しそうで何よりです。
「うん、依月さんから聞いていたけど本当に仲が良いみたいだね。それじゃ、彼女のことは任せたよ、陶夜くん」
「……へっ、あ……はい、店主さん」
すると、楽しそうな笑顔のまま、軽く僕の肩に手を置き去っていく店主さん。きっと、キッチンの仕込みに向かうのだろう。
……うん、これだったんだね。楽しそうだった理由は。そもそも、今日からというあまりに急な報告に違和感はあったし。きっと、風奈さんの発案だろう。僕をびっくりさせるために、直前まで言わないでいてほしいと。……まあ、店主さんもノリノリで応じたとは思うけど。意外とお茶目なところあるからね、あの人。
まあ、それはともあれ……うん、色々聞きたいことはある。あるけど、ひとまず今は――
「……それでは、僭越ながら僕が教育を担当させていただきます」
「はい! 宜しくお願いします、陶夜先輩!」
そう伝えると、ビシッと敬礼のポーズで答える風奈さん。……うん、まあ、職場では一応そうなるんだろうけど……うん、やっぱり違和感はあるよね、その呼び方。




