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「……ふぅ。どうだった? 陶夜くん」
「……はい、すごく素敵で……本当に、感動しました」
「……そ、それは言いすぎだよ……でも、ありがとっ」
それから数分後。
そう伝えると、少し目を逸らした後、笑顔で謝意を告げてくれる風奈さん。でも、言いすぎたつもりはない。僕としては紛うことなき本音を伝えただけで。
さて、そんな彼女が歌ったのは80年代の名バラード。今もなお数多の人にカヴァーされていて、風奈さんは最近ブレイクしたとある人気歌手がネットで上げていた歌唱動画を見て覚えたそう。尤も、カヴァーだと知らず最近の曲だと思っていたようで、昭和の曲だと伝えるとたいそう驚いていて……うん、そんな反応もやっぱり可愛くて。……ただ、それはそれとして――
「……ところで、驚いたんですけど……風奈さんって、マイクなしで歌うんですね」
「…………へっ?」
そう伝えると、どうしてかきょとんと表情でこちらを見る風奈さん。何を言っているのか分からない、そんな心中が僕でもありありと読み取れる。……あれ、僕がおかしいのかな? ひょっとして、最近の若い人はマイクなしで歌うのがトレン――
「……あ、ああマイクね! うん、そう、私はマイクなしで歌う派だから! 陶夜くんは?」
「……そ、そうなのですね……やはり流石です、風奈さん。僕は……まあ、マイクあり派ですかね」
「そ、そうなんだ! うん、だったら拝見しちゃおうかなっ。果たして、陶夜くんがどれほどのマイクの使い手なのかっ」
「マイクの使い手ってなに!?」
思いも寄らない風奈さんの発言に驚愕のツッコミを入れる僕。いやマイクの使い手ってなに!? ……まあ、それはともあれ――
「……あっ、聴いたことあるこの曲!」
イントロが鳴ると、明るくそう口にする風奈さん。うん、知ってる曲で良かった。さて、緊張を抑えつつ第一声を――
「……うん、なんと言うか……上手いね、陶夜くん。ちょっと……いや、結構びっくりしちゃった」
「あ、ありがとうございます風奈さん」
数分後、驚いた様子で賛辞を伝えてくれる風奈さん。この様子から、気遣いでなく本心で言ってくれているのが伝わり、申し訳なくも大変嬉しく――
「……でも、その、うん……大丈夫?」
「なにゆえ!?」
「あ、いや、メロディーはちょっと聴いたことがあったんだけど、こういう歌詞だとは知らなくて……」
「……ああ、なるほど」
そう、本当に心配そうに尋ねる風奈さん。なるほど、そういうことでしたか。……まあ、お世辞にも明るい歌詞とは言えないしね。僕は好きなんだけど。
「――さあ、次はこれで!」
「あっ、この曲すっごく好きです!」
「ほんと? じゃあ一緒に歌おう!」
「……へっ? あ、はい……それでは、お願いします」
ともあれ、そんな感じで二時間ほど楽しい時間を過ごした僕ら。帰り道、また一緒に行こうねと告げる風奈さん。そんな彼女の笑顔が眩しすぎて、少し目を逸らしつつ頷き答え……ほんと、情けないなあ僕は。




