願いの条件?
「さて、改めてですがすみません、陶夜さん。お帰りのところ、わざわざ時間を取っていただいて。ですが、どうしてもあの中では話しづらいことでして」
「いえ、お気になさらず。別段、急ぎの用事もありませんし」
それから、20分ほど経て。
そう、穏和な微笑で告げる光里さん。今、僕らがいるのは静謐とした公園――砂場と雲梯が一つずつあるだけの、でもだからこそ開放感のある緑豊かな公園で。そして、その隅の方にて控えめに佇む木組みのベンチに二人腰掛けていて。
ところで、この公園に来るまでおよそ20分――ただでさえコミュ障の僕が、ほぼ初対面の人と二人で歩くとなると本来なら気まずいことこの上ない状況で。それこそ、たった20分が一時間にも二時間にも感じるであろう状況で。
だけど、不思議とそんなことはなく、むしろあっという間だったくらいで。と言うのも、積極的に会話をリードしてくれるというのもあると思うけど……それを除いても、どうしてか彼女とはほぼ自然に話すことが出来て。風奈さんと僕の馴れ初めや、光里さんの学校でのお話など、まるで旧知の友のように自然に話せて……やっぱり、ご姉妹だから? 風奈さんとも、僕にしては自然と話せて……まあ、それもそれで未だに不思議なんだけども。ほんと、どうして――
「――さて、陶夜さん。さっそく本題ですが――なにか、お願いはありませんか?」
「…………へっ?」
ふと、ふっと微笑みそう問い掛ける光里さん。……えっと、お願い? いったい、急にどうし――
「……あっ、ですが私と付き合いたい、とかは流石に駄目で……その、私は神様なので……」
「あっ、それは結構ですのでご心配なく」
「ひどくない!?」
そんなやり取りの後、僕の胸をポコポコと叩き不服を示す光里さん。まあ、本気じゃないだろうし痛くないからいいんだけども……でも、まだあったんですね、その設定。
ともあれ、一頻り僕を叩いた後、再び僕の瞳をじっと見つめる光里さん。そして――
「――ですが、願いを叶えるに当たり一つ条件があります。それは――姉さんが貴方を、本当に好きになるという条件です」
「…………へっ?」
刹那、唖然と口を開く僕。……まあ、さっきから度々そうなってる気もするけど……ともあれ、それはどういう――
「――ああ、別に貴方を試そうとかそういう話ではないですよ? 文字通り、これは条件――願いを叶えるに当たり、姉さんの恋心が一定の水準に達することが発動条件なのです。尤も、どういう原理なのかは私にも分からないのですが」
「…………」
そう、柔和に微笑み告げる光里さん。こうして、懇切丁寧に説明してくれたことは非常にありがたい。ありがたい、のだけど……うん、やっぱり何が何やら。
……まあ、それはともあれ、
「……あの、光里さん。別に、僕にお願いなんてありませんよ? あっ、もちろん僕なんかが風奈さんに好きになってもらえるなんて思っていませんが!」
「おや、欲のない人ですね。まあ、貴方らしいですけど」
そう伝えると、少し可笑しそうに微笑み答える光里さん。もちろん、僕なんかが条件を満たせるなどと思い上がってはいないけど……そもそも、願いらしい願いも特には……あと、それって僕らしいの? そもそも、らしいも何も会ったばか――
「――まあ、今はそれで構いません。ですが、一応は考えておいてください。条件、とは言ったものの……貴方なら、意図せずともきっと満たしてしまいますから。きっと、そう遠くない内に」
そんな疑問の最中、滔々と告げる光里さん。どうしてか、確信さえ窺える不敵な笑みで。そんな彼女に、僕は――
「……はい、一応は」
そう、呟くように答える。何を以て、そこまで僕を評価してくれるのか――もちろん、その理由は分からない。だけど……いずれにせよ、やっぱり考える必要なんてない。だって、本当に僕が条件を満たせるのなら――本当に、彼女に好きになってもらえるのなら……これ以上、いったい何を願う必要があるのだろう。




