第6章 (4)再会
シルヴァは、グスタフの視線を受け止めると、迷うことなく戦場へと足を踏み入れた。彼の足元には、瓦礫と、破壊された星詠みの寺院の残骸が散乱している。夜の空気を焦がす炎の熱気と、立ち込める土煙が、彼の視界を歪ませた。しかし、彼の瞳は、その混沌とした光景を、すべて見通しているかのようだった。
彼の前に立ちはだかるのは、皇国騎士団の兵士たちと、第一魔術師団の魔術師たち。彼らは、目の前に現れた一人の男を、まるで邪魔な虫けらのように見つめていた。しかし、彼らは、目の前の男が、この国で最も危険な存在の一人であることなど、知る由もなかった。
シルヴァは、彼らの警戒心に満ちた視線を、ただ静かに受け止めた。そして、彼の右手に、淡い光が灯る。それは、彼が操る魔力の光だった。彼は、その光を、まるで何かの儀式のように、静かに、しかし流れるように、宙に放った。
「…無駄な殺生は好まん。退け。」
彼の声は、静かだった。しかし、その声には、この場の空気を一変させるほどの、重い威圧感が込められていた。しかし、兵士たちは、その言葉に耳を傾けることなく、一斉にシルヴァに襲いかかった。彼らの手には、鋭い剣と、魔法の光が宿る槍が握られている。
シルヴァは、その攻撃を、ただ静かに見つめた。そして、彼が唱えた魔法は、言葉を持たない、純粋な魔力の流れだった。
「『虚無の檻』」
彼の放った魔力が、兵士たちの周囲に、無数の見えない壁を築き上げた。兵士たちは、その見えない壁にぶつかり、まるで鳥籠に閉じ込められた鳥のように、身動きが取れなくなる。彼らは、その不可解な現象に、戸惑いと恐怖の表情を浮かべていた。シルヴァは、その光景を、冷たい視線で見つめ、再び魔法を放った。
「『星屑の嵐』」
彼の両手から、無数の光の粒が、まるで星屑のように舞い上がった。その光の粒は、次の瞬間、鋭い刃と化し、虚無の檻に閉じ込められた兵士たちを、次々と切り裂いていく。兵士たちの悲鳴が、夜の空に響き渡る。それは、残酷な光景だった。しかし、シルヴァの表情は、依然として冷たいままだった。彼は、この国の悲劇を止めなければならない。そのためには、たとえ無駄な殺生であっても、この場所で、彼らを倒す必要があった。
シルヴァは、次々と襲いかかる魔術師たちを、冷静に、そして確実に倒していく。彼は、相手の魔法の詠唱を、一瞬で読み取り、その魔法が放たれる前に、それを打ち消す魔法を放つ。
「『無力の結界』」
彼の魔法は、相手の魔法を無力化するだけではない。魔力の流れを乱し、相手の精神に干渉する。魔術師たちは、自分の魔法が発動しないことに混乱し、顔を青ざめさせた。その隙に、シルヴァは、彼らの心臓を、魔力の刃で貫いていく。
「…あやつは必ず来ている…」
シルヴァは、戦いながら、心の中で呟いた。彼の瞳は、周囲の敵を倒しながらも、どこか遠くを見つめている。彼の予感は、この戦いの先に、もう一人の、最も重要な敵がいることを告げていた。それは、この寺院の破壊を、真に望んでいる者だ。
シルヴァは、無数の敵を、次々と倒していく。彼の魔法は、まるで、水が流れるように、澱みなく、そして、容赦なく、敵を打ち倒していった。戦意のないものに対しては何もしないが、「敵」と見なしたものに対して、一切の情はかけず、作業のように処理していった。彼は、相手の動きを先読みし、その動きに合わせて、最適な魔法を放つ。彼の戦い方は、まるで、チェスの名人が、何手も先を読んで、相手を追い詰めていくかのようだった。
彼は、一人の男を、魔力の鎖で拘束した。その男は皇国騎士団副団長、キースだ。彼は、シルヴァの圧倒的な強さに、絶望の表情を浮かべていた。
「…お前は…まさか…シルヴァ…!?」
キースの震える声に、シルヴァは何も答えなかった。彼は、ただ、冷たい視線をキースに向け、彼の心臓を、魔力の刃で貫いた。
シルヴァは、あらかた敵を片付けた。彼が放った魔法の光が、あたりを淡く照らし、瓦礫と血の海が、その光に照らし出される。さすがは、皇国随一と謳われた魔術師。彼の強さは、まさに、伝説と呼ぶにふさわしいものだった。彼の周囲には、もはや、立ち上がっている者はいなかった。
その時だった。
背後から、強い一撃が、シルヴァを襲った。それは、彼がこれまでに受けた、いかなる魔法よりも、強く、そして、冷たいものだった。シルヴァは、その魔法が放たれた瞬間に、わずかに気配を感じ、かろうじて、防御の魔法を放つ。
「『拒絶の盾』」
彼の作り出した魔力の盾は、その一撃を、完全に防ぐことはできなかった。衝撃が彼の全身を襲い、彼は数メートル後方へと吹き飛ばされる。彼の身体は、瓦礫の山に激突し、彼は、痛みに顔を歪めた。
「…ふむ。やるのう。」
シルヴァは、静かにそう呟くと、ゆっくりと立ち上がった。彼の顔には、一筋の血が流れている。彼は、その血を、手の甲で拭い、魔法が放たれた方角に、ゆっくりと視線を向けた。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。彼女は、黒いローブを身にまとい、その顔は、深く被ったフードに隠されている。しかし、彼女の瞳だけは、はっきりと見ることができた。その瞳は、悲しみに満ちていた。それは、まるで、この世のすべての悲劇を、一人で背負っているかのようだった。彼女は、シルヴァの姿を、ただ、じっと見つめている。
シルヴァは、その女性の姿を見て、すべての謎が解けたかのように、静かに、しかし確信に満ちた声で、話しかけた。
「…やはり、お前か…」
彼の声は、悲しみと、そして、どこか安堵に満ちていた。彼は、この戦いの先に、彼女がいることを知っていた。そして、彼女が、この悲劇の、そして、この国の運命の鍵を握る存在であることを、悟っていた。
夜風が、二人の間を吹き抜ける。炎の熱気と、立ち込める土煙の中で、二人は、ただ、静かに、互いを見つめ合っていた。この再会が、彼らの、そして、この国の運命を、大きく動かすことになるとは、まだ誰も知らなかった。




