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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第6章 破滅への序曲

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第6章 (2)可能性

 グスタフが告げたしらせは、重く冷たいなまりのように、部屋の空気を沈殿させた。南へ向かう騎士団と魔術師団。その目的地が「封印の地」であることは、グラハムの言葉から明白だった。ロイドは、その事実を前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできない。彼の脳裏には、自分が信じていた皇国騎士団の背徳的な行動と、これから起こるであろう悲劇的な光景が次々と浮かび上がっていた。


「…どうしたら…」


 ロイドが、か細く呟く。その声は、絶望と無力感に満ちていた。彼は、この事態をどう乗り越えればいいのか、全く見当がつかなかった。グラハムはまだ完全に回復しておらず、自分は、直接的な戦闘に特化した人間ではない。彼らの手にできることは、あまりにも少なすぎるように思えた。


 部屋に、重苦しい沈黙が降りてくる。誰もが、この絶望的な状況を打破する方法を見つけられずにいた。時計の針が時を刻む音だけが、やけに大きく、彼らの焦りをあおるように響いている。


 その沈黙を破ったのは、いつも感情を表に出さないシルヴァだった。彼の瞳は、遠い過去を懐かしむように、あるいは、未来を見据えるように、遥か遠くの一点を見つめている。


「…わしが行こう。」


 その言葉に、ロイドはハッと顔を上げた。彼は、シルヴァの真意を測りかね、ただ驚愕に目を見開く。


「しかし!お一人では…!」


 ロイドの声が、うわずる。たしかにシルヴァは、現役の頃、人知れず多くの任務を遂行してきた。しかし、今回、彼が対峙するのは、皇国の正規軍だ。しかも、その中には、第一魔術師団という、皇国の魔術の粋を集めた精鋭部隊も含まれている。たとえシルヴァがどれほど優れた魔術師であっても、たった一人で、軍隊を止めるなど、無謀に思えた。


 しかし、シルヴァは、ロイドの不安げな視線を真っ向から受け止め、静かに、しかし確信に満ちた声で答える。


「わしなら、止められる可能性はある…可能性はな。」


 その言葉には、決して軽々しい自信は含まれていなかった。むしろ、彼自身もその成功が極めて困難であることを理解しているようだった。それでも、彼は行く。その決意の裏には、彼にしか成し得ない、何かがあることを示唆していた。


 そして、シルヴァは、まるで全てを悟ったかのように、静かに続けた。


「グラハムも目覚めた。ロイドたちもいる。もう自分の身とソフィアくらいなら守れるだろう。」


 その言葉には、グラハムへの深い信頼と、そして、彼自身がこの場に留まる必要がなくなった、という確信が込められていた。彼の瞳には、どこか寂しげな色が浮かんでいる。


「老いぼれは、もうここにはいらんだろう。」


 自嘲気味にそう口にしたシルヴァの表情は、どこか寂しげで、彼の心に去来する複雑な感情を物語っていた。彼は、この場所で、大切な家族を守るために戦ってきた。しかし、今、その役割は、次の世代へと受け継がれようとしている。彼は、その事実を、静かに受け入れていた。


 ロイドは、シルヴァの言葉に、胸を締め付けられるような痛みを感じた。彼の言葉は、彼がどれほど家族を愛し、守ろうとしてきたかを物語っていた。ロイドは、彼の深い愛情と、そして、彼を一人で行かせたくないという思いから、再び懇願するように口を開いた。


「私たちも共に!」


 しかし、シルヴァは、首を横に振る。


「いや、一人で行こう。」


 その決意は、揺るぎないものだった。彼は、この任務が、誰にも手伝わせるべきではない、孤独な戦いであることを理解していた。


 その時、これまで黙って二人のやり取りを見ていたグスタフが、一歩前に踏み出した。彼の顔は、ロイドと同じように、シルヴァを案じる気持ちで満ちている。


「ならば、私が荷物持ちだけでも。」


 グスタフの声は、力強く、そして、決意に満ちていた。彼は、シルヴァを一人で行かせるわけにはいかない。たとえ、わずかでも、彼の力になりたいと願っていた。


 しかし、シルヴァは、その申し出を冷たく突き放した。


「いらん。」


「いいえ。」


 グスタフは、一歩も引かない。彼の瞳には、シルヴァへの強い忠誠心が宿っていた。グスタフはシルヴァとは年も近く、共に戦ったこともあり、

 言葉には出してこなかったが、尊敬をしていた。その固い決意に、シルヴァは、観念したかのように、小さく息を吐いた。


「…好きにせい。」


 シルヴァの言葉に、グスタフの顔に、わずかな安堵の色が浮かんだ。ロイドは、珍しく自分の意思を感情を込めて伝えるグスタフの固い決意と、シルヴァへの深い信頼を見て、静かに、しかし力強く言った。


「グスタフ、頼んだぞ。」


「ああ…」


 グスタフは、力強く頷いた。彼の表情には、この任務の重圧と、そして、シルヴァの力になれるという、確かな喜びが満ちていた。


 グラハムは、これまで黙って二人のやり取りを見守っていた。彼の心には、シルヴァを一人で行かせることへの不安と、そして、彼を信じる思いが入り混じっている。彼は、静かに、しかし深い敬意を込めて、シルヴァに言葉をかけた。


「…お気をつけて…」


 グラハムの言葉に、シルヴァはわずかに口元を緩めた。その表情は、彼がグラハムを、一人の男として、そして、家族を託すに値する人間として、深く信頼していることを示していた。


「心配するな。自分のことだけ考えていろ。」


 シルヴァは、そう言って、グラハムの肩を軽く叩いた。その言葉は、グラハムを一人前の男として認め、そして、この先、ソフィアを守るという新たな役割を、彼に託しているようだった。グラハムは、シルヴァの言葉を受け止め、静かに、しかし力強く頷いた。


 シルヴァは、もう迷うことなく、出口へと向かった。


「急がねばな。」


 彼の声には、決意と、そして、この国を救うという、強い使命感が満ちている。グスタフは、その後を、一歩も遅れることなく続いた。二人の背中からは、この国の、そして、ソフィアたち若者が生きる未来を守るという、固い決意が感じられた。


 ロイドは、静かに、しかし深い感銘を受けて、彼らの後ろ姿を見送った。そして、グラハムに視線を戻し、尋ねた。


「…よいのですか?行かせて?」


 ロイドの声には、まだ、シルヴァを一人で行かせたことへの不安が残っていた。しかし、グラハムは、その不安を払拭するように、静かに答えた。


「シルヴァ様の強さは知っておろう。きっと大丈夫だ。」


 グラハムは、そう言って、遠くを見つめる。彼の瞳には、シルヴァへの絶対的な信頼が宿っていた。しかし、その瞳の奥には、シルヴァが一人で向かうことになった、もう一つの理由があることを示唆しているようだった。


「…だが、行くには何か理由があるのだろう。」


 グラハムの言葉に、ロイドはハッとした。シルヴァが、ただ武力で騎士団を止めようとしているのではない。彼の「止められる可能性」という言葉の裏には、彼自身にしかできない、何か特別な役割があるのかもしれない。


 グラハムは、再びロイドに視線を戻し、彼の瞳を、真剣に見つめた。


「もし、封印が全て消されれば、次は『鍵』だ」


 その言葉は、ロイドの心臓を、強く打ち鳴らした。グラハムが、今回の襲撃の理由として語った「力」の獲得。その第二段階が、「鍵」の奪取だというのか。


「確認しているのは、お前たちと共に旅をしていた、エルフの娘ということか…」


 グラハムの言葉に、ロイドは息をのんだ。彼の脳裏に、バッシュとエライザの姿が浮かんだ。彼らは今、ローレル王国にいる。もし、彼らがこの国の計画をローレル王国で察知し動くならば、「鍵」であるエライザとバッシュだけでは危なすぎる。


 ロイドの心に、新たな焦りが生まれる。彼は、ただグラハムとソフィアを守るだけではいけない。バッシュとエライザの身にも、危険が迫っているのだ。彼は、自分がこの場で立ち止まっている場合ではないことを悟った。


 グラハムは、そんなロイドの焦燥を見て、静かに頷いた。


「…そのようだ。。」


 彼の言葉は、ロイドの心に、新たな使命感を植え付けた。ロイドは、グスタフとシルヴァが向かった方角を見つめた。彼らは、この国の悲劇を止めるために、それぞれの役割を果たすために、今、戦場へと向かっている。ロイドもまた、自分がすべきことを、見つけ出さなければならなかった。彼の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

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