第5章 (23)荒廃した土地
一夜明け翌日、彼らは再び会議室に集まっていた。朝の光が窓から差し込み、静かな部屋を淡く照らしている。昨日の告白と、互いの決意を確認し合ったことで、彼らの間には、これまで以上に強い絆が生まれていた。
バッシュは、手に持った温かいコーヒーマグを見つめていた。彼の心は、まだ完全に整理されたわけではなかった。しかし、孤独ではない。その事実は、彼の心を温かく満たしていた。
「さて、じゃあ、改めて今後のことを考えようか。」
スコールが、椅子にもたれかかりながら、軽やかに口を開いた。彼の視線は、バッシュに向けられている。
「バッシュの過去、そして背中の刻印。その手がかりを探すのが、俺たちの当面の目標になる。知識はこのリズの研究所にも十分にあるが、それだけじゃ足りないだろうしな。」
バッシュは、スコールの言葉に頷いた。彼は、この研究所にいるだけでは、何も解決しないことを知っていた。
「本当は、科学アカデミーに直接乗り込むのが一番早いんだろうが、まあ、身分を明かせない君たちじゃ、入れないだろうしな。」
スコールはそう言って、冗談めかして肩をすくめた。その言葉に、アリサが不安げな表情を浮かべる。
「そ、そんな危険なこと、絶対にやだよ!」
スコールは、アリサの反応を見て、優しく笑った。
「わかってるさ。だから、もっと安全な場所を考える。…そうだな。もし、何か手がかりを探すなら、王都の北方に広がる『機械の森』に行ってみるか?」
スコールの提案に、リズとアリサは、少し眉をひそめた。
「『マキナフォレスト』…ですか?あそこは、昔、森林地帯だったらしいですが、今は廃棄された機械や建物があるだけで、荒廃した土地だと聞いていますわ。」
リズの声には、不信感がにじんでいた。しかし、スコールは、そんなリズの反応を気にも留めず、言葉を続けた。
「ああ。昔は、国が実験のために使っていた場所らしいんだ。もし、何かしらの関係のある研究が行われていたとしたら、その残骸が、何か手がかりを残しているかもしれない。…例えば、禁忌の残骸とか。」
スコールは、ニヤリと笑った。その言葉には、彼の好奇心と、科学者としての探求心が満ちている。
バッシュは、スコールの言葉に、身体が震えるのを感じた。それは、恐怖ではない。真実が、すぐそこにあるという、確かな予感だった。
「そこに行ってみよう。」
バッシュは、静かに、しかし決意に満ちた声で答えた。彼の瞳には、もう迷いはなかった。
その言葉に、エライザは、わずかに顔を曇らせた。彼女は、バッシュが危険な場所に足を踏み入れようとしていることに、不安を覚えている。しかし、バッシュの強い決意を見て、何も言えずに、ただ静かに彼の隣に座っていた。
すると、アリサが、意を決したように立ち上がった。
「ぼくも行く!バッシュを一人にはさせない!それに、ぼくたちのハンドガンの練習の成果も、きっと役に立つはずだ!」
アリサの言葉に、エライザは、そっと微笑んだ。彼女は、アリサの勇敢さと、バッシュへの深い友情に、心打たれた。
「…私も行く。」
エライザが、静かに、しかしはっきりと答えた。その声には、バッシュを守るという、強い決意が込められている。
その様子を、リズは静かに見つめていた。彼女は、バッシュたちの決意を、ただの好奇心や友情だけではないと見抜いていた。それは、彼らが自身の運命と向き合い、未来を切り開こうとする、強い覚悟だった。
「…仕方ありませんわね。わたくしも行きますわ。」
リズの言葉に、スコールは驚き、目を見開いた。
「えー…リズも行くのか?マジかよ?」
スコールの言葉に、リズは、冷たい視線を向けた。
「マジですわ。わたくしの研究の行く末を握る『鍵』を、見知らぬ危険な場所に行かせられるわけがないでしょう!それに…」
リズは、そこで言葉を切り、バッシュをじっと見つめた。
「…あなたの背中の刻印が、わたくしの研究とどう繋がっているのか、この目で確かめなければ気が済みませんわ。それに、あなたたちの故郷の『自然の魔力』と、この国の『科学の魔力』が、どう融合するのか…その答えは、もしかしたら、あそこにあるのかもしれませんわ。」
リズの言葉に、スコールは肩をすくめた。彼は、リズが一度決めたら、決して意見を変えないことを知っていた。
「…わかったよ。じゃあ、俺は留守番してなさい、ってか?」
スコールが、がっかりしたように言った。しかし、リズは、スコールの言葉を無視し、淡々と続けた。
「その通りですわ。あなたは、この研究所に残って、わたくしたちが持ち帰るであろう、新たな情報を解析する用意を。そして、もし何か問題が起きた時に、いつでも対応できるように、準備を整えておくのですわ。」
リズの言葉は、完璧な作戦だった。それは、スコールが、彼女の計画を補完する、重要な役割を担っていることを示していた。スコールは、そんなリズの言葉に、わずかに口元を緩めた。
「…ちぇっ。まあ、しょうがないか。じゃあ、俺は留守番だ。みんな、気をつけて行ってこいよ。お土産、期待してるからな。」
スコールは、そう言って、にこやかに笑った。
エライザは、そんな彼らの様子を見て、心からの安堵を覚えた。彼らは、それぞれの役割を理解し、互いを信頼し、支え合っている。彼らの旅は、孤独なものではない。彼らには、真実を求め、未来を創造する、強い仲間がいるのだ。
バッシュは、スコールとリズの言葉に、深く頷いた。
「ああ。…必ず、何かを見つけ出してくる。」
バッシュの言葉に、スコールは、親指を立てた。
その日、彼らは、新たな決意を胸に、王都の北方に広がる、荒廃した『機械の森』へと旅立った。それは、彼らの過去を解き明かし、未来を切り開く、新たな旅の始まりだった。




