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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第5章 科学技術の王国

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第5章 (18)目覚め


 バッシュが皇国を旅立ち、ローレル王国へと向かってから、皇国中に広がる不穏な空気を警戒するため、ロイドはシルヴァと共に治療院に詰めていた。

 ロイドとシルヴァはグラハムの警護にあたっている。彼らが集めた情報は、単なるゴシップとは思えないほど、具体的で、現実味を帯びていた。また、治療院の周囲には、見慣れない不審な影が潜んでいるのを、ロイドもシルヴァも幾度となく感じていた。彼らは直接的な攻撃を仕掛けてくるわけではない。ただ、遠くから、まるで何かの合図を待つかのように、じっと治療院を監視している。


(グラハム様が目を覚ましたと知られれば、間違いなく奴らは動くだろう。それまでに、何としてでもこの不穏な動きの正体を掴まなければ…)


 ロイドは、今日もまた、グラハムの病室の隣にある控室で、手元に集めた情報を整理していた。彼の隣には、いつものように静かに紅茶をすするシルヴァの姿がある。彼の無表情な顔の奥に、ロイドと同じ、深い警戒心が潜んでいることを、ロイドは知っていた。


「シルヴァ様、何か新しい情報は?」


 ロイドが問いかけると、シルヴァはゆっくりとカップをソーサーに戻した。カチャリと小さな音が静かな部屋に響く。


「……ない。変わらず、治療院の周囲を監視している影をいくつか感じる。彼らは、あやつが目覚めるのを、ただ待っているだけだ。しかし、その視線は、以前よりも増しているように感じる。」


 シルヴァの言葉に、ロイドの眉間に深い皺が刻まれた。


「この不穏な空気は、この国全体に広がっている。騎士団の動きも注意せねばなるまい。」


「まさか…」


 ロイドは、息をのんだ。もし、皇国騎士団が動くのであればそれは戦争か、もしくは封印を消しに行くかだ。、この事態は、彼が想像していたよりも遥かに深刻なものだった。


 その時だった。控室の扉が勢いよく開き、一人の男が飛び込んできた。ゴールドウィンだ。彼は、息を切らし、顔を紅潮させながら、一心不乱に二人の元へと走ってくる。


「ロイド!シルヴァ様!」


 ロイドとシルヴァは、同時に立ち上がり、ゴールドウィンの方へ駆け寄った。彼の顔に浮かぶ、興奮と喜びの入り混じった表情を見て、二人は、すぐにその意味を悟った。


「どうした、ゴールドウィン。まさか…」


 ロイドが震える声で尋ねる。ゴールドウィンは、大きく息を吸い込むと、その言葉を叫んだ。


「グラハム様がお目覚めに…!今、目を覚まされました!」


 その言葉に、ロイドとシルヴァは、一瞬、時間が止まったかのように固まった。そして、次の瞬間、二人は顔を見合わせ、目を見開いた。その瞳には、信じられないという思いと、そして、抑えきれない喜びの光が宿っていた。


「本当か!?ゴールドウィン!」


 ロイドが確認すると、ゴールドウィンは力強く頷いた。


「ああ!この目でしかと!ソフィア様も、今すぐお呼びします!」


 ゴールドウィンは、そう言って、すぐにきびすを返して駆け出そうとした。ロイドは、彼の肩に手を置き、静かに言った。


「ゴールドウィン、落ち着いてくれ。ソフィアちゃんとサヤカは庭だ。目覚めを確認してから直接伝えよう。…グラハム様を、一人きりにはしておけない。」


 ロイドの言葉に、ゴールドウィンはハッと我に返った。治療院の外の不審な影が、グラハムの覚醒を感知するかもしれない。ロイドとシルヴァは、万が一の事態に備え、静かに、しかし素早く病室へと向かう。


 一方で、治療院の庭では、ソフィアとサヤカが楽しそうに遊んでいた。ソフィアが、小さな花を摘み、サヤカの髪に飾ってやると、サヤカは嬉しそうに微笑む。


「お姉ちゃん、これ、お父様に持って行く!」


 ソフィアが、そう言って、両手にいっぱいの花を抱えた。その無邪気な笑顔は、庭に咲く花々よりも、遥かに輝いていた。


「うん!きっと喜ぶわね。」


 サヤカもまた、心からそう思った。彼女は、グラハムが目を覚ますのを、誰よりも心待ちにしていた。彼の意識が戻れば、ソフィアの寂しさが少しでも和らぐだろう。


 その時、治療院の廊下から、ロイドとシルヴァ、そしてゴールドウィンが、まるで嵐のように駆け抜けていくのが見えた。彼らの表情は、これまでに見たことのないほど、切羽詰まっており、そして、どこか喜びにも満ちていた。


「どうしたんだろう…?」


 ソフィアが、不思議そうに首を傾げる。サヤカは、嫌な予感がして、そっとソフィアの手を握った。しかし、その予感は、すぐに安堵へと変わった。彼らの表情は、怒りや悲しみではなかった。それは、希望に満ちた、輝く光だった。


「きっと…きっと、いいことだよ!」


 サヤカは、ソフィアにそう言うと、二人は急いで、彼らの後を追った。


 ロイドとシルヴァが、グラハムの病室の扉を勢いよく開けた。彼の表情は、いつもと変わらない。ベッドの上には、一人の男が横たわっている。彼の顔は、ずっと深い眠りについていた時と同じように、穏やかで静かだった。しかし、唯一違っていたのは、その瞳だ。


 ロイドは、グラハムのベッドのそばに駆け寄り、その瞳を覗き込んだ。彼の瞳は、はっきりと、ロイドの姿を捉えている。その瞳には、光が宿っていた。それは、瀕死の頃の、虚ろな光ではない。はっきりと、ロイドを認識している、強い光だった。


「グラハム様…!」


 ロイドは、思わず、その名を呼んだ。その声は、震えていた。喜びと、安堵と、そして、これまでの苦労が報われたという、様々な感情が入り混じっていた。


「わかりますか?ロイドです。グラハム様!」


 ロイドは、もう一度、問いかけた。グラハムは、ゆっくりと、しかし確かな力で、ロイドに頷いた。その動きだけで、彼が完全に意識を取り戻したことが、ロイドには分かった。


 シルヴァは、静かにベッドのそばに立ち、グラハムの様子を見守っていた。彼の口元には、わずかに微笑みが浮かんでいる。彼もまた、この日を、誰よりも心待ちにしていたのだ。


 その時、扉が再び開き、ソフィアとサヤカが駆け込んできた。ソフィアは、ベッドに横たわるグラハムの姿を見て、一瞬、足を止めた。そして、その瞳に、涙が溢れ出した。


「お父様…!」


 ソフィアは、そう叫ぶと、グラハムのベッドに飛びついた。彼女は、小さな両手で、グラハムの胸を掴み、顔を埋めた。彼女の震える肩から、嗚咽が漏れ出す。


「ソフィア…」


 グラハムは、弱々しく、しかし愛情のこもった声で、娘の名を呼んだ。彼は、ゆっくりと、ソフィアの頭に手を伸ばし、優しく撫でた。


「お父様…!よかった…!本当に…よかった…!」


 ソフィアは、グラハムの腕に抱きつき、声を上げて泣いた。彼女の涙は、グラハムの服を濡らし、彼の心に、深い喜びと、そして、これまでの苦しみを乗り越えた安堵を与えた。


 サヤカは、その光景を、部屋の隅で静かに見守っていた。彼女の瞳にも、涙が溢れていた。それは、ソフィアとグラハムの再会を喜ぶ、温かい涙だった。彼女は、そっとソフィアの背中を撫で、彼女の気持ちに寄り添った。


 シルヴァは、そんな彼らの様子を見て、静かに、しかし深く頷いた。彼は、この光景を、心に焼き付けていた。グラハムの意識が戻った。この事実は、彼らの運命を、そして、皇国全体の運命を、大きく動かすことだろう。


 しかし、今は、ただ、この再会の喜びを、心ゆくまで味わうべき時だ。シルヴァは、そう思い、再び静かに、彼らの幸福な時間に寄り添った。


 グラハムは、ソフィアを抱きしめながら、部屋の中にいる全員に、感謝の眼差しを向けた。そして、ロイドに視線を戻すと、その瞳に、強い光を宿した。


(ロイド…君が、ソフィアを守ってくれたのだな…)


 グラハムは、言葉を交わさずとも、ロイドにその想いを伝えた。ロイドは、その視線を受け止め、深く頷いた。


「グラハム様、お目覚めになられて、本当によかったです。」


 ロイドは、心の底からそう言った。彼の心の中には、これまでの苦労や、不眠不休の日々が、全て報われたという、確かな充実感が満ちていた。


 グラハムの覚醒は、彼らにとって、新たな希望の光だった。そして、この光は、彼らがこれから立ち向かう、大きな闇を照らす、力強い道しるべとなるだろう。

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