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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第5章 科学技術の王国

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第5章 (17)2人

 星詠みの寺院は、月明かりに照らされ、静寂に包まれていた。古びた石畳は冷たく、風が運ぶ線香の香りが、夜の空気に溶け込んでいる。本殿の奥、星空が映し出された床に、二つの影が向き合っていた。一人は、寺院の主であるセレス。もう一人は、黒いローブを纏った、顔の見えない女性だ。


「やはり、あなたでしたか…」


 セレスは、ローブの女性をじっと見つめ、静かに呟いた。その声には、驚きや怒りではなく、深い悲しみがにじんでいる。彼女は、この女性がいつか来ることを、星の導きで知っていたのかもしれない。


「なぜなのです?」


 セレスの問いかけに、ローブの女性は、何も答えなかった。ただ、静かに頷く。その仕草だけで、彼女の決意が揺るぎないものであることを示していた。


「お分かりでしょう?」


 女性の声は、月光のように冷たく、しかし、その奥には、抑えきれないほどの憎悪と悲しみが隠されているようだった。


 セレスは、痛みに耐えるように目を閉じた。


「本当に、その『力』を手に入れるのですか。たとえ、その後には何も残らない、破滅しか待っていないとしても。」


「…わかっています。」


 女性は、静かに答える。その声は、震えていた。彼女が、その言葉の重さを理解していることが、セレスには痛いほどに伝わってくる。


「あなたの私怨が、この国に利用されようとしているのに、それでもですか?」


 セレスの言葉に、女性は、わずかに体を震わせた。彼女の纏う空気が、一瞬だけ、激しい怒りと憎しみに満ちる。


「…私は…私は許せない…!」


 女性の声が、感情を露わにする。それは、彼女の心が、どれほど深く傷ついているかを物語っていた。


「だから滅ぼす。それだけよ。」


 その言葉には、迷いも、後悔もなかった。ただ、すべてを終わらせたいという、強い意志だけが宿っていた。


 セレスは、そんな女性の悲痛な叫びを聞き、涙を流す。その涙は、星空を映す床に落ち、小さな波紋を広げた。


「じゃあ、なぜ危険をおかしてまであの人を連れ出して、この国に逃げてきたのです?平穏に暮らすためではなかったのですか?」


 セレスの問いかけに、女性は、初めて沈黙した。彼女のローブの奥で、手が固く握りしめられているのが分かる。


「彼は、今、必死にもがいています。彼は、どちらにも転ぶことができる。その未来を決定する権利は、彼しか持っていない。あなたは、わかっていたのでしょう?なぜ、彼を行かせたのです?」


 セレスの言葉が、女性の心を揺さぶる。女性は、顔を上げ、セレスを見つめた。その瞳には、今まで見せたことのない、深い後悔と、そして、かすかな愛情が宿っていた。


「すべてを壊すため…国を、世界を、そして…私自身も…壊してもらうため…」


 女性の声は、もはや憎悪に満ちたものではなかった。それは、自らの運命を受け入れた者の、静かで、しかし、どこか悲しい響きを持っていた。


「今からでも…」


 セレスが、懇願するように手を伸ばした。しかし、女性は、その手を静かに払い、首を振る。


「もう無理よ。運命は動き出している。止められない…」


 女性の言葉には、まるで、遠い昔から定められていたかのような、諦めが込められていた。


「セレス様、私はあなたに生きてもらいたい…だから、ここに来ました。この場所は、もうすぐ消されます。あなたが、わたくしと心中することはないでしょう?他の場所で、静かにお過ごしください。」


 女性は、そう言って、セレスに深く頭を下げた。その姿は、まるで、最期の別れを告げているかのようだった。


「わかっています。それでも、私はあなたを止めたいのです。」


 セレスは、そう言って、涙を拭った。彼女は、この女性の悲しい運命を、星の導きで知っている。それでも、彼女は、この女性を救いたいと願っていた。


「…失礼いたします。どうか、お元気で…」


 女性は、そう言って、悲しげな微笑みを浮かべると、月の光の中に溶けるように、静かに去っていった。セレスは、その小さな背中が闇の中に消えていくのを、ただ、祈るように見送ることしかできなかった。

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