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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第5章 科学技術の王国

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第5章 (16)疲労

 バッシュとスコールが研究室に戻ると、そこにはすでに苛立いらだちを隠せないリズの姿があった。彼女は腕を組み、冷たい視線をスコールに向けている。その隣で、エライザとアリサは、少し疲労の色を浮かべながらも、どこかやり遂げたような表情で、実験器具の片付けをしていた。


「スコール!遅い!いったい、何をしていたんですの!?」


 リズの声が、白を基調とした研究室に響き渡る。スコールは、そんなリズの怒りを気にも留めず、ひらひらと手を振った。


「ごめんごめん!ちょっとバッシュと大事な話をしててさ。時間忘れて…」


「大事な話ですって!?わたくしたちは、一分一秒を無駄にできませんのよ!まったく、わたくしがいないと、すぐにサボる…!」


 リズはそう言って、スコールをにらみつけた。しかし、スコールは涼しい顔で、エライザとアリサに話しかけた。


「どうだ、二人とも。お仕事は?」


「え…あ、はい…」


 アリサは、スコールの問いかけに、思わずたじろいだ。彼女は、まだリズの威圧感から完全に解放されていないようだ。


「……すごかったです…」


 エライザが、静かに答えた。その声には、驚きと、そして、リズへの畏敬の念が混じっていた。


「だろ?リズはヒステリックだが、この研究所で一番の天才だ。まあ、俺にはかなわないがな。」


 スコールはそう言って、再びリズをからかうような笑顔を見せた。リズは、その言葉に眉をひそめ、額に青筋を立てた。


「誰がヒステリックですって!?もういいですわ!あなたたちのおかげで、わたくしの研究は、予定よりも三時間も遅れたわ!」


 リズは、そう言って、深いため息をついた。彼女の言葉に、アリサは、自分がリズに迷惑をかけたと思い、申し訳なさそうにうつむいた。しかし、リズは、そんなアリサの様子を気にも留めず、淡々と続けた。


「今日はもう、終わりよ!これ以上、あなたたちの相手をする時間はありませんわ!」


 その言葉に、アリサとエライザは、安堵の息を吐いた。長時間の作業と、リズの厳しい言葉に、二人の心はすっかり疲弊していた。


「さあ、さっさと片付けなさい!わたくしの実験は、明日からさらに加速しますわ!」


 リズはそう言って、研究台に広げられた実験器具を指差した。その声には、疲労の色は一切なく、ただ、研究に対する情熱と、明日への期待が満ちている。


 アリサとエライザは、リズの言葉に慌てて、実験器具の片付けを始めた。スコールは、そんな二人の様子を面白そうに眺め、バッシュに声をかけた。


「じゃあ、バッシュ。お前も今日はお疲れさん。今日のところはゆっくり休め。」


 バッシュは、スコールの言葉に頷き、エライザとアリサの様子を静かに見守った。二人の顔には、まだ疲れの色が残っている。しかし、その瞳には、恐怖や絶望ではなく、明日への希望と、強くなりたいという、強い決意の光が宿っていた。


(強くなったな、エライザ…)


 バッシュは、その光景を見て、自分の心が温かくなるのを感じた。彼が、彼女たちのために、そして、自分自身の真実のために、この場所で戦う決意をしたことに、後悔はなかった。


 やがて、片付けを終えた三人は、再び客間へと戻っていった。研究所の廊下は、すでに薄暗く、一日の終わりを告げているようだった。彼らのローレル王国での旅は、まだ始まったばかり。しかし、この場所で、彼らは、それぞれの運命を変える、大きな一歩を踏み出したのだった。


 研究室を出た三人は、客間へと続く廊下を静かに歩いていた。別の部屋に行くと言うスコールも途中まで同行した。外はすでに夜の帳が降り、窓から差し込む月明かりだけが、廊下を淡く照らしている。リズの苛烈なまでの情熱に当てられ、疲労困憊していたはずのアリサとエライザだったが、その表情には、どこか満ち足りたような、充実感が浮かんでいた。


「リズさんって、本当にすごいですね……」


 アリサが、ぽつりとつぶやいた。その声には、先ほどまでの怯えの色はもうない。純粋な、尊敬の念がにじみ出ていた。


「ああ。リズは、科学者の中でも、ずば抜けている。あの頭脳は、まさに天賦の才だ。まあ、俺ほどじゃないがな。」


 スコールは笑いながら答えた。珍しくからかうような言葉を口にせず、神妙な面持ちでリズの才能を認めた。


「でも、あんなに研究に没頭して、大丈夫なんですか? なんだか、見ていて、怖くなってきました……」


 エライザが、不安げに顔を曇らせる。彼女は、リズの狂気的なまでの情熱の裏に、何か危ういものを感じ取っていた。


「大丈夫さ。アイツは、自分の限界を誰よりもよく知ってる。無理をしない程度に、ギリギリを攻めるのが得意なんだ。それに……」


 スコールは、言葉を濁し、わずかに口元を緩めた。


「まあなんだ…俺がいるからな。」


 その言葉に、バッシュとエライザ、アリサは、思わず顔を見合わせる。スコールの言葉には、根拠のない自信と、仲間への強い信頼が込められていた。その言葉は、疲弊した三人の心を、じんわりと温かく満たしていく。


 スコールは途中で別の研究室へと入っていった。


「それにしても、バッシュ。何かあったの? スコールと二人で、ずいぶん長いこといたみたいだけど…」


 エライザが、不安げな眼差しをバッシュに向ける。その瞳には、彼を案じる気持ちが、はっきりと見て取れた。


「……ああ。色々と、な…」


 バッシュは、曖昧に言葉を濁した。スコールとの間で交わされた、自身の出生の秘密、そして、ローレル王国という国そのものに潜む闇。そのすべてを、今、この場で話すことはできない。それは、彼らが背負うには、あまりにも重すぎる事実だった。


「すまない…整理してから話す。」


 バッシュは、正直にそう告げた。エライザは、その言葉に、少しだけ心配な表情をしたものの、すぐに頷き、それ以上は何も尋ねなかった。


「……わかったよ。ずっと、待ってるから。」


 エライザはやさしく微笑んだ。

 エライザの言葉に、バッシュの胸は、再び温かくなった。彼は、この仲間たちのために、真実を突き止め、そして、エライザを守り抜くことを、改めて心に誓った。


 客間に戻ると、アリサは、すぐにベッドに倒れ込むようにして眠りについた。エライザもまた、疲労の限界だったようで、静かに寝息を立て始める。バッシュは、そんな二人を静かに見守った。


(スコールは、何か隠しているのだろうか。 俺のの謎、この国の闇は、やはりどこかで繋がっているのか…)


 バッシュの頭の中で、様々な疑問が渦を巻く。彼は、この国に隠された真実を、そして、自分自身の真実を、突き止めることを、改めて心に誓った。


 その夜、バッシュは、なかなか寝付くことができなかった。彼の頭の中には、読み取った記録の映像がずっと焼きついて離れなかった。この先この国で、どんな真実と向き合うことになるのだろうか。そして、その真実は、彼らの運命を、どこへ導いていくのだろうか。


 夜は、静かに更けていく。しかし、彼らのローレル王国での旅は、まだ始まったばかりだった。


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