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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第5章 科学技術の王国

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第5章 (15)アーティファクト

 バッシュとスコールが去った後、リズはエライザとアリサを研究所の別の区画へと連れて行った。そこは、これまでの場所とは一転して、静かで清潔な、白を基調とした部屋だった。部屋の中央には、手術台のような台が置かれており、その上に、一際目を引く存在が横たわっていた。


 それは、まるで人間をかたどったかのような、精巧な人形だった。光沢のある白い素材でできており、滑らかな表面には、繊細な魔力回路が、まるで血管のように張り巡らされている。瞳には、まだ光は宿っておらず、その姿は、まるで眠っているかのようだった。


「…これは…?」


 アリサが、息をのんで尋ねる。その瞳は、驚きと、わずかな恐怖で揺れていた。


「これが、わたくしが研究している『人造体アーティファクト』ですわ。」


 リズは、そう言って、その人形にそっと触れた。彼女の指先が触れるたびに、人形の表面に刻まれた魔力回路が、淡く光を放つ。その光は、まるで、人形に生命が宿り始めているかのようだった。


「これは、ただの機械ではありません。これは、命を模倣した存在です。そして、わたくしは、これに『心』を宿らせるための研究をしています。」


 リズの声には、科学者としての揺るぎない自信と、そして、研究に対する深い情熱が込められていた。


「『心』を…?」


 エライザが、静かに呟いた。彼女の瞳は、人形の精巧な造形と、それに張り巡らされた魔力回路を、じっと見つめていた。


「ええ。自然界に存在しない魔力を増幅させ、これに流し込むことで、まるで人間のように動く、自立した存在を生み出す。それが、この『増幅装置』の最大の目的ですわ。」


 リズは、そう言って、人形の胸元に埋め込まれた、小さな魔力増幅炉を指差した。その増幅炉は、心臓のように、規則正しく、静かに鼓動を打っている。


「どうして…そんなことを?」


 アリサが、戸惑いを隠せないまま尋ねる。彼女が知る魔術は、自然の摂理に則り、生命の力を借りるものだった。しかし、リズの研究は、まるで神の領域に踏み込んでいるかのようだった。


「ローレル王国が、なぜこのような研究をするのか…」


 リズは、アリサの問いに、遠い目をして答えた。


「それは、わたくしたちが『弱い』からですわ。ローレルは、魔力が乏しい。だから、魔力に頼ることなく、人間を、そしてこの国を、豊かに、そして強くする方法を模索してきたのですわ。この人造体は、その答えの一つです。」


 リズは、そう言って、人形の顔を愛おしそうに撫でた。


「この子が完成すれば、この国は、どんな敵にも屈しない、強大な存在になるでしょう。わたくしたちの悲願を、この子が叶えてくれる。」


 リズの言葉には、この国に生まれた者としての、強い使命感が感じられた。しかし、その言葉を聞くほどに、エライザの心には、ある疑念が湧き上がってくる。


(この研究…バッシュの過去と、何か関係があるの…?)


 彼女の頭の中に、スコールがバッシュに言った「人造人間」という言葉がこだまする。そして、バッシュの背中に刻まれた「875」という刻印。その数字が、リズの研究と、どう繋がっているのだろうか。


「あなたたちには、これから、この人造体の開発を手伝ってもらいますわ。あなたたちの故郷の『自然の魔力』と、わたくしたちの『科学の魔力』が、どう融合するのか。そして、この人造体に、『心』を宿らせることができるのか…。その答えは、あなたたちが握っているのかもしれませんわ。」


 リズは、そう言って、エライザとアリサの瞳をまっすぐに見つめた。彼女の瞳には、冷たい理性と、そして、知られざる真実への探求心が、強く輝いていた。


 バッシュは、スコールと二人きりの部屋で、黙って考え込んでいた。頭の中では、先ほど見た「器」の光景が、何度も繰り返される。その光景は、ローレルが持つ技術の裏にある、暗い闇を示していた。そして、スコールが「国の科学者ではない」と語った言葉が、彼の心に引っかかっていた。


「…スコール」


 バッシュは、重い口を開いた。スコールは、そんなバッシュの様子に気づき、静かに振り返った。


「…なんだ?」


「お前は、この国の科学者ではないと言っていたな。どうしてだ?…辞めたのか?それとも、追放されたのか?」


 バッシュの問いかけに、スコールの顔から、いつもの軽薄な笑みが消えた。彼の瞳には、一瞬だけ、警戒の色が浮かび上がった。


「…なぜ、そんなことを聞く?」


 スコールは、わずかに声を低くして問い返した。彼の声には、先ほどまでの親しみやすさはなく、どこか鋭い刃のような響きがあった。


「気になるからだ。俺は、アイシアで情報を探している時に、ローレルの『禁忌の実験』について見たんでな。それと、お前の口ぶり…。何か関係があるのかと、疑った。」


 バッシュは、スコールの冷たい視線から逃げずに、真っ直ぐに見つめ返した。彼の心の中には、疑念と、そして、この国の真実を知りたいという強い想いが渦巻いていた。


 スコールは、バッシュの言葉に、一瞬だけ目を見開いた。そして、すぐに、いつもの飄々とした態度に戻った。


「はは、禁忌の実験、か。面白いな。あんた、そんなことまで調べてたのか。」


 スコールは、そう言って、わざとらしく笑った。しかし、その笑いは、どこか不自然で、乾いていた。


「俺は、ただの好奇心旺盛な科学者さ。国という枠組みに囚われるのが嫌でな。研究は、自由な発想から生まれるものだろ?」


 スコールは、そう言って、話をはぐらかそうとした。彼は、バッシュの問いに答えることを拒んでいる。その態度が、かえってバッシュの疑念を強固なものにした。


(何か隠している…)


 バッシュは、スコールの目を見て、そう確信した。彼が隠していること。それは、ローレルが、過去に、禁忌の実験を行ったという事実。そして、その実験に、彼自身が関わっていたのかもしれないという、彼の疑念を裏付けるものだった。


「…そうか。なら、いい…」


 バッシュは、それ以上は何も聞かなかった。彼が尋ねても、スコールが真実を語ることはないだろう。そのことは、バッシュにも分かっていた。


 スコールは、バッシュの様子を見て、安堵の息を吐いたようだった。そして、再び、いつもの軽薄な笑顔を浮かべた。


「さあ、いつまでもこんなところにいても仕方ない。リズが怒る前に、訓練場に戻ろうぜ。」


 スコールは、そう言って、バッシュの肩を叩いた。しかし、その手は、いつもの温かさとは違い、どこかぎこちなかった。


 バッシュは、スコールの態度に、複雑な心境を抱えながらも、静かに頷いた。彼が探している真実は、スコールの口から語られるものではない。彼は、自分自身の目で、この国の闇を、そして、彼自身の過去を、見つけ出さなければならないのだと、改めて決意した。

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