第5章 (2)守るための力
焚き火の炎がパチパチと音を立て、あたりを暖かく照らす中、バッシュはスコールに問いかけた。
「スコール。さっき使っていた武器はなんなんだ?」
バッシュの言葉に、アリサも興味津々といった様子で顔を上げた。
「ぼくも気になる!あれは、いったいどういう仕組みなんだい?」
スコールは、にやりと笑うと、腰から例の奇妙な筒を取り出した。
「ああ、これか。これはな、『魔力銃』と言って、僕らの科学が生み出した最高の武器だ。このタイプはまあ、ハンドガンだな。」
スコールはそう言って、L字型で片手で握りやすいその武器を、二人に見せた。引き金がついており、弾を込める場所がある。
「これは、魔力を込めてある特殊な弾を装填して撃ち出すものだ。魔法を使えなくても、これさえあれば魔法を撃ち出せる。これが、ローレル王国の技術の結晶さ。」
スコールは、誇らしげに胸を張った。
バッシュとアリサは、信じられないといった表情でハンドガンを見つめる。
「それじゃあ、どんな強力な魔法でも生み出せるのかい?」
アリサの問いに、スコールは肩をすくめた。
「いや、さすがにそこまでは無理だな。撃ち出せる魔法の威力は、弾の大きさ、容量によって決まる。ハンドガンに込める弾は小さいから、キマイラを仕留めるほどの威力はなかっただろ?それに、この弾は、魔力の少ないローレル王国では『精製』に手間がかかる。使いどころも考えなきゃいけない。もっとも、魔術師が魔力が豊富な場所で作るなら、そう難しくはないのかもしれないが。まあ、魔術を使えるやつがこんな武器使う必要がないからな。」
スコールはそう説明を続けるが、彼の言葉の最後に、エライザの瞳が、何かを悟ったかのように輝いた。
「でも、これさえあれば、魔法も剣も知らない人間でも戦うことができる。」
その言葉を聞いた瞬間、エライザは、今まで黙っていたのが嘘のように、勢いよく顔を上げた。
「戦える…魔法も剣も使えなくても…私でも…?」
彼女の声は、希望に満ちていた。
エライザは、ずっと心の奥底で思っていた。バッシュが、いつだって自分を守ってくれるのはわかっている。それは、疑いようのない、揺るぎない事実だ。しかし、彼女は、ただ守られるだけの存在でいたくない。
(私が、私がバッシュの背中を守らなきゃ…!)
バッシュは、いつも自分を守るために、その真の力を発揮できていないのではないか。もし、バッシュが心置きなく戦えたなら、どんな敵にも負けないはずだ。だから、私も戦える術が欲しい。バッシュを、そしてアリサを守る力…それが欲しい。
エライザは、震える手で、そっとバッシュの服の裾を握った。
「スコールさん…そのハンドガン…私にも、使い方を教えてもらえますか?」
エライザの言葉に、バッシュは驚きを隠せない。彼は、エライザの小さな肩に手を置き、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「エライザ…何を言っているんだ。危険なことには…」
「私も…バッシュを守りたい…」
エライザの瞳は、これまでに見たことのない強い決意の光を宿していた。バッシュは、何も言葉を返すことができなかった。
スコールは、エライザの小さな体から放たれた、強い決意の光を静かに見つめていた。その瞳には、先ほどの軽薄な笑みはもうなく、真剣な光が宿っている。彼は、焚き火の炎に照らされたエライザの顔をじっと見つめ、静かに語りかけた。
「…力が欲しいかい?力というものは、時に、破壊しか生まない。悲しみ、憎しみ、負の感情の連鎖が起こる。それでも、君に、その力は必要かい?」
スコールの言葉は、エライザの心に深く響いた。彼女は、目を閉じ、自問自答を始めた。
(私が欲しい力は…何?)
頭の中に、祭壇で感じ取った精霊たちの悲鳴がこだまする。封印を解いて「力」を欲した者たちの思惑。その力は、エルフの命を犠牲にし、世界に悲劇をもたらそうとした。彼らが欲した「力」は、破壊と支配のために使われるものだった。
(私は…あの人たちと同じなの…?)
エライザは、恐怖と葛藤に苛まれた。もし、私が戦うための力を欲するなら、それは、彼らが欲した「力」と何が違うのだろう。同じ憎しみと、同じ悲しみを生み出すだけなのではないか。
しかし、その思考は、すぐに否定された。彼女の心の中には、バッシュの優しい笑顔と、彼女を守ってくれた温かい手の感触が鮮明に蘇ってきた。
(違う…同じじゃない…)
エライザは、目を開けた。その瞳には、もう迷いはなかった。
「…守るための力…」
彼女は、静かに、しかし、強い眼差しでスコールを見つめた。その力は、誰かを傷つけるためのものではない。誰かを守り、大切な人を護るための「力」だ。
バッシュは、そんなエライザの様子を、ただじっと見つめていた。彼女と出会ってからのことが、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
深い傷を負い、追っ手から逃げてきた、か弱いエルフの少女。いつも怯え、不安そうにしていた彼女が、今、自分から「戦う力」を求めようとしている。その成長は、バッシュにとって、想像以上のものだった。
(…強くなったな、エライザ)
バッシュは、何も言わずに、彼女の小さな頭に、ぽん、と軽く手を置いた。その手は、優しく、そして温かかった。
エライザは、バッシュのその温かさに、ホッと安堵の表情を浮かべた。そして、ゆっくりと彼を見上げ、ふわりと、優しい笑みを浮かべた。その笑顔は、これまでの不安な表情とは違う、確かな強さを秘めた笑顔だった。
「うん…」
エライザは、ただ一言、そう応えた。その言葉に、二人の間に、特別な絆が生まれたのを感じた。
スコールは、そんな二人のやり取りを、静かに見守っていた。そして、やれやれ、といった表情から一転、真剣な眼差しで二人に向き直った。
「いい覚悟だ。結論から言えば、君にも使える。もちろん、アリサにもだ。」
スコールはそう言って、再びハンドガンを取り出した。
「俺の研究所には、このハンドガンの試作品がたくさん転がっている。使っていないものがな。よし、それを君たちにあげよう。」
彼の言葉に、バッシュもアリサも驚きを隠せない。
「いいのか…?」
バッシュが尋ねると、スコールは笑って答えた。
「もちろんさ。ただ、いきなり実戦で使うのは危険だ。まずは、俺の研究所で練習してみな。そこで『いける』と思ったら、使えばいい。それに、君たちと一緒の方が、この旅は面白くなりそうだ。」
スコールは、そう言って、ウィンクした。
エライザの瞳は、希望に満ちて輝いていた。バッシュは、スコールの言葉に感謝しつつも、どこか警戒を緩められないでいた。しかし、エライザの決意を無下にすることはできなかった。
「わかった。感謝する。」
バッシュはそう言って、スコールに頭を下げた。アリサもまた、スコールの懐の深さに感銘を受け、素直に感謝を伝えた。




