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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第3章 皇都

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第3章 (19)一つの真実

 アリサは、エライザの必死な叫びと、バッシュの警戒する視線を受け止めながら、静かに、しかしはっきりと語り始めた。


「いいだろう。ぼくが知っていることを話してやるよ。ただし、ぼくがこの目で見たわけじゃない。伝え聞いたことだ。だが、確かなことだ…」


 アリサの表情は真剣そのものだ。広場の賑やかなざわめきが遠のき、彼らの周りだけが、奇妙な静寂に包まれたように感じられた。


 そして、アリサは躊躇なく、残酷な真実を口にした。


「結論から言おう。君たちの里を『消した』のは、この国だ。」


 その言葉は、バッシュとエライザの心に、雷が落ちたかのような衝撃を与えた。二人は、信じられないものを見るように目を見開いたまま、息を呑んだ。エライザの握りしめたバッシュの手が、さらに強く、震えながら締めつけられる。


 アリサは、エライザが完全に凍り付いているのを見て、心配そうに尋ねた。


「エルフのお嬢さん、大丈夫かい?…続けてもいいかな?」


 エライザは、全身を震わせながらも、アリサから目を離さなかった。その瞳には、今にもこぼれ落ちそうなほどの涙が満ちていたが、それでも真実を知りたいという強い意志が宿っている。彼女は、力なく、しかし確かに頷いた。


 エライザの様子に、バッシュは胸を痛めた。これ以上、彼女に辛い真実を突きつけるべきではない。


「エライザ、もういい。ここまでにしておこう。」


 バッシュは、エライザの肩に手を置き、優しい声で語りかけた。しかし、エライザは、その言葉を振り切るかのように、バッシュの手を強く握りしめた。彼女の震える指先が、彼の掌に食い込む。


「ううん…バッシュ…!私、知りたい…!全部…知りたいの…!」


 エライザの声は、涙と決意に震えていた。その瞳は、これまで以上に強く、揺るぎない光を放っていた。彼女は、自分の故郷に何が起きたのか、その真実の全てを受け止める覚悟を決めていた。


 バッシュは、エライザの震える手から伝わる確固たる決意を感じ取った。彼女の瞳に宿る真実への渇望に、これ以上遮ることはできないと悟る。バッシュは、そっとエライザの手を強く握り返し、彼女の隣に寄り添った。


 アリサは、そんな二人の様子を一瞥すると、再び静かに語り始めた。


「じゃあ、続けるね。なぜ、君たちの里を『消す』必要があったのか。それは、里そのものが、ある『力』の封印になっていたからだ。」


 その言葉に、バッシュの脳裏に、先日読んだ「世界樹の秘密」の書物にあった「制御装置」や「暴走するエネルギー」という記述がフラッシュバックする。エライザのペンダントが「精霊石」であり、エライザ自身「鍵」であることと、この「力」の封印がどう繋がるのか、バッシュは思考を巡らせた。


「その封印は、世界中に数カ所あるらしい。済まないが、ぼくも詳しくは知らない。」


 アリサは淡々と言葉を紡ぐ。


「ただ、最近各地で起きている異変というのは、その封印が緩んできているからだと推測できるよね。そして、その『力』が何なのか、何に使うのか…ぼくには分からない。まあ、力を求める者の先にあるのは、争いしかないけどね…」


 アリサは、どこか諦めにも似た表情でそう呟いた。


「そんな理由さ。君たちの里が『消された』理由というのは。」


 エライザは、その言葉を全身で受け止め、唇を噛みしめた。故郷が、自分たちの故郷が、ただの「封印」として扱われ、消されたという事実に、胸の奥から絶望と怒りが込み上げる。


「そして、そこにあった『鍵』の奪取も目的だったらしい。それともう一つ『《《何か》》』を探していたと…ぼくは『鍵』や『《《何か》》』ってのが何かまでは知らないけどね。」


 アリサはそう付け加えると、エライザの顔をじっと見つめた。


 エライザは、その言葉の全てを聞き終えると、深い絶望に打ちひしがれたかのように、顔を覆い、小さく嗚咽を漏らした。里が、家族が、大切なものが、ただの「力」のために犠牲になったという、あまりにも残酷な真実。彼女の肩が、小刻みに震えている。


 バッシュは、そんなエライザの姿を、ただ見つめることしかできなかった。彼女の悲しみが、直接自分の心に響くようだった。しかし、同時に、この残酷な真実を、彼女と共に乗り越えていかなければならないという強い使命感も、彼の胸に沸き起こっていた。彼の手は、エライザの手を、より強く握りしめていた。


 アリサは、うずくまるエライザの姿に、自らも胸を痛めているようだった。彼の美しい顔に悲しみが広がり、その瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちた。


「ごめんね、辛かったよね…」


 アリサの声は震えていた。


「でも、君を見たとき、エルフの生き残りがいると分かったとき、伝えなきゃって思ったんだ。この事実を知ったとき、ぼくも絶望した。本当に何のために…『力』って…」


 アリサはそれ以上言葉を紡げず、ただ、エライザの悲しみに寄り添うように涙を流した。


 バッシュは、不意に飛び込んできたあまりに重い情報に、頭の整理が追いつかなかった。エルフの里が「力」の封印であり、国の一部勢力によって滅ぼされたという事実。そして、その「力」とは一体何なのか。彼の思考は混乱し、ただ目の前で嗚咽するエライザを見つめることしかできなかった。


 エライザは、アリサの共感と、故郷の残酷な真実に打ちのめされ、全身から力が抜けたかのように、バッシュの腕にもたれかかった。彼女の体は小刻みに震え、嗚咽が止まらない。しかし、その震えは、絶望だけではない。故郷を奪われた怒り、そして、この事実を乗り越えなければならないという、新たな決意の萌芽も秘めているかのようだった。


 バッシュは、全身を震わせるエライザをしっかりと抱き寄せ、その肩を優しく抱いた。彼の温もりと存在が、彼女の心を少しでも支えようとしていた。アリサもまた、エライザの悲しみに深く共感し、その美しい顔に涙を流しながら、静かに二人に寄り添っていた。


 エライザは、バッシュにもたれかかっていた体をゆっくりと起こし、涙で濡れた顔でアリサに視線を向けた。その瞳はまだ潤んでいたが、そこには確かに感謝の光が宿っていた。


「…ありがとう、アリサさん。」


 彼女はそう言って、かすかに微笑んだ。アリサは、自分の涙をそっと拭うと、言葉の代わりに軽く首を振ってから、深く頷いた。


 そして、エライザはバッシュへと向き直った。その顔は、どれほど辛い真実を突きつけられても、決して屈しないという気丈な意志を宿していた。彼女は、涙をいっぱいに溜めながらも、バッシュに力強く微笑んで見せた。


「大丈夫、バッシュ…」


 その言葉を口にした瞬間、彼女の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。


 バッシュは、そんなエライザを再び強く抱きしめた。彼女の小さな背中を優しく撫でながら、震える声で語りかける。


「よく頑張った、エライザ。必ず…俺が君を守る。どんなことがあっても、決して君を一人にはしない。」


 彼の言葉は、揺るぎない誓いだった。広場の喧騒の中、バッシュとエライザ、そしてアリサの間には、深い悲しみと、それを乗り越えるための固い絆が確かに結ばれた。

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