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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第3章 皇都

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第3章 (16)覚悟の確認

 ぼんやりと意識が浮上する。エライザは、目を開けた。白い天井が見える。ここはどこだろう?何をしてたんだっけ?まだ頭の中が靄がかかったようにぼんやりとしていた。


 ゆっくりと意識がはっきりしてくる。そうだ、私、解呪を試して…グラハムさんを…そして、バッシュに支えられて…その後の記憶が曖昧だ。


「え?」


 ふと、自分の傍らに誰もいないことに気づいた。バッシュは?ロイドさんやみんなは?急に、胸の奥から不安がこみ上げてきた。


「バッシュ?バッシュ?」


 声が震える。喉が締め付けられるように苦しくなり、瞳に涙がにじんだ。泣きそうになりながら、もう一度彼の名を呼ぼうとした、その時だった。


 カチャリ、と静かな音を立てて病室のドアが開いた。


 そこに立っていたのは、水差しとコップを手に持ったバッシュだった。彼の顔には、安堵したような優しい笑みが浮かんでいる。


「エライザ、起きて大丈夫か?」


 バッシュの優しい声が、不安で張り詰めていたエライザの心をそっと解きほぐした。彼の姿を確認した途端、目いっぱいに溜まっていた涙が、はらはらと頬を伝った。エライザは、涙目でこくりと頷いた。


 バッシュは優しく水差しを傾け、コップに注いだ水をエライザに手渡した。エライザは震える手でそれを受け取り、ゆっくりと喉を潤す。冷たい水が体を巡り、少しだけ落ち着きを取り戻した彼女は、バッシュの服の裾をギュッと握りしめた。


「グラハムさんは…どう…なったの?」


 不安げに、蚊の鳴くような声で尋ねるエライザに、バッシュは彼女の頭をポンと軽く叩いた。


「成功だ。よくやった、エライザ。」


 バッシュがにこやかにそう告げると、エライザの顔がパッと明るくなった。信じられない、という表情から、次の瞬間には歓喜へと変わる。彼女は勢いよくバッシュに抱きつき、喜びを全身で表現した。


 その時、病室のドアが勢いよく開いた。


「お姉ちゃん!」


 ソフィアが、エライザが目を覚ましているのを見るや否や、小さな体を弾ませて叫んだ。そのまま迷うことなくエライザの胸に飛び込んでくる。エライザもまた、ソフィアをしっかりと抱きしめた。


「ソフィアちゃん…!」


 病室には、安堵と喜びが満ちていた。


 ソフィアは、エライザが意識を失った時、必死に呼びかけ、泣き続けていた。しかし、今、目の前でエライザが目を覚まし、自分を抱きしめている。安堵と喜びが一度に押し寄せ、彼女は再び、声を上げて泣き始めた。


「ありがとう、お姉ちゃん、ありがとう!」


 ソフィアは何度も何度も、エライザに感謝の言葉を繰り返した。エライザもまた、ソフィアを強く、優しく抱きしめ返した。その小さな体から伝わる温かさは、解呪の成功を確かなものとしてくれた。


 その頃、グラハムの病室では、ロイドたちが彼の経過を慎重に見守っていた。ゴールドウィンはグラハムの容態を詳しく確認し、ゆっくりと顔を上げた。


「呪いの痕跡はもうない、ロイド。完全に消え去ったようだ。」


 ゴールドウィンの声には、信じられないものを見たかのような驚きと、深い安堵が混じっていた。


「ただ、長らく呪いに蝕まれていたため、体力は著しく落ちている。目覚めてから徐々に回復に向かうだろう。」


 ロイドは大きく息を吐いた。呪いが解けたことへの安堵と同時に、新たな戦いの始まりを予感していた。


「目覚めてからが、本当の戦いが始まるんじゃないか…」


 ロイドはグラハムの看病をサヤカとグスタフに任せると、バッシュとエライザの元へ向かった。彼らの今後の相談が必要だと感じていた。


 グラハムの容態が安定し、呪いが完全に解けたことを確認すると、バッシュとエライザ、そしてロイドは、残りの経過観察をゴールドウィンたちに任せ、店へと戻ることにした。治療院に残る彼らの顔には、安堵と共に、新たな戦いへの決意が宿っているのが見て取れた。


 店に戻ると、ロイドは慣れた手つきで夕食の準備を始めた。厨房からは次々と香ばしい匂いが漂い、食卓には温かい料理が並んでいく。今日のメインは、ふっくらと焼き上げられたハーブ香る鶏肉のローストだ。表面はこんがりと焼き色がつき、ナイフを入れると肉汁があふれ出す。付け合わせには、バターでソテーされた甘い根菜のマッシュと、シャキシャキとした食感の森の恵みサラダが添えられている。温かい麦のスープからはハーブと野菜の優しい香りが立ち上り、食卓はあっという間に豊かな色彩で満たされた。


 ロイドは、いつものように明るく振る舞い、エライザの功績を称えた。


「いやあ、しかし、嬢ちゃんの力には驚いたな!まさか、本当にグラハム様の呪いを解いてしまうとは。あんたは、本当にすごいぞ!」


 エライザは、ロイドの言葉に頬を染めながら、少し照れたように俯いた。


「そんな…バッシュが、信じてくれたから…」


 バッシュは、そんなエライザの言葉に、何も言わずに優しく微笑んだ。


 一通り食事が終わり、片付けも済んで、食卓に温かいハーブティーが並べられた頃、ロイドは真面目な顔つきで話を切り出した。


「さて…ここからは、真面目な話だ。」


 ロイドの言葉に、場の空気が引き締まる。バッシュとエライザも、彼の言葉を待った。


「グラハム様は回復に向かうだろう。それは何よりも喜ばしいことだ。しかし、今回の襲撃で分かったように、奴らは『鍵』である嬢ちゃん、そしてグラハム様を執拗に狙っている。奴らがなぜ『鍵』を狙うのか…そして、なぜグラハム様が命を狙われたのか。そこには、我々が思っている以上に深い闇が広がっているはずだ。」


 ロイドの視線が、バッシュとエライザの間をゆっくりと行き来した。


「エライザ嬢ちゃんの力は、確かに今回の危機を救ってくれた。だが、同時に、その力がどれほど強力で、どれほど狙われる存在なのかも浮き彫りになった。そしてバッシュ…お前何者だ?さっぱり分からない。お前たちの力は、世界の運命をも左右しかねない、とてつもない可能性を秘めている。」


 ロイドは、深く息を吐き出した。


「だからこそ、これからの行動は、より慎重に、そして大胆にいく必要がある。ローレル王国、そしてアイシア皇国…二つの大国が絡むこの陰謀の深層を、我々は解き明かさなければならない。」


 彼はカップを手に取り、一呼吸置いた。


「そこでだ。お前たち二人に、改めて尋ねたいことがある。この先、どのような道を進むつもりだ?我々も、できる限りの協力を惜しまない。だが、その前に、お前たちの覚悟を聞かせてほしい。」


 ロイドの言葉は、彼らに決断を迫っていた。彼らの旅は、もはや個人的な過去探しや守るべき存在のためだけではない。世界の命運をも左右する、壮大な物語へと足を踏み入れているのだ。


 ロイドの問いかけに、バッシュはカップをテーブルに置き、まっすぐ前を見据えた。


「俺は、自分が何者なのかを全く知らない。前にロイドに言われた、味方なのか、敵なのかも…。」


 バッシュの声は、自らの内に秘めた葛藤を映し出すように、静かに響いた。


「だが、俺は俺だ。この動き出した運命が、もし破滅に向かうというのなら、止めてやる。まだ知らなければならないことがたくさんある。ここで止まるわけにはいかない。」


 彼の視線が、隣に座るエライザへと向けられた。エライザは何も言わず、ただ、バッシュをじっと見つめ返していた。その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。


 ロイドは次に、エライザへと向き直った。


「嬢ちゃんはどうだ?グラハム様の解呪には、本当に感謝しているよ。だが、これから先はもっと危険かもしれない。もしかしたら、ここでサヤカやゴールドウィンのところにいる方が安全かもしれないな。どうする?」


 ロイドの問いかけに、エライザは一切迷うことなく即答した。


「バッシュのそばが、世界で一番安全なの。」


 そう言って、少し頬を膨らませ、バッシュの腕にぴたりとしがみつく。その仕草は、彼女の確固たる決意を表していた。


 バッシュは、エライザの行動に少し戸惑いながらも、優しく彼女の頭を撫でた。


「いいのか?今まで以上に危険になることもあるだろう。それでも…」


 バッシュが言葉を続けようとした、その時だった。エライザが、彼の唇にそっと人差し指をあて、その言葉を遮った。


「私に、他に選択肢はないの。」


 エライザは、涙を浮かべながらも、バッシュに優しく微笑んだ。その瞳は、彼の隣にいることこそが、彼女にとっての唯一の道だと物語っていた。バッシュはそれ以上何も言わず、ただ静かに頷いた。


 二人のやり取りを見ていたロイドは、大きく息を吐いて、呆れたように茶化す。


「やれやれ、人が真面目に話してるってのに、お前たちは…」


 ロイドはそう言いながらも、その表情には、二人の覚悟を認めるような、どこか満足げな笑みが浮かんでいた。彼らの旅は、これからも共に続いていくことを、この場で改めて確認し合った瞬間だった。

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