表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第3章 皇都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/102

第3章 (1)治療院

 バリスの巨大な城門をくぐり、荷馬車が賑やかな市街地へと足を踏み入れた。活気に満ちた人々の往来、立ち並ぶ多様な店々、そして耳慣れない言葉の響き。それら全てが、宿場町とは比べ物にならない大都市の息吹を感じさせた。


 バッシュは、グラハムの治療とソフィアの安全を最優先に考えていた。どこへ向かうべきか思案していると、隣に座るロイドが、馬車を停めることなく、そのまま慣れた様子で手綱を進めていく。


「まずは、腕のいい医者がいるところに連れて行ってやるよ。」


 ロイドの声には、迷いが一切なかった。まるで、この街の隅々まで知り尽くしているかのように、迷うことなく馬車を進めていく。彼の顔には、いつもの飄々とした笑みが戻っていたが、その口調には確かな自信が宿っていた。


 バッシュは、その様子を見て改めて確信した。


(やはり、ただの商人ではないな。この街の地理、そして医療機関にまで詳しいとは…)


 彼の正体を探りたい衝動に駆られたが、今はグラハムの命が最優先だ。詮索は後回しだと、バッシュは心に決めた。


 馬車は、狭い裏路地を抜け、やがて人通りの少ない静かな通りへと入っていった。古びた石造りの建物が並ぶ一角に、ひときわ大きく、手入れの行き届いた建物が見えてくる。その入り口には、薬草の紋章が掲げられていた。


「ここが、このバリスでも指折りの腕を持つ医者の家だ。腕は確かだが、口も固い。あんたたちにとっては、うってつけだろう。」


 ロイドはそう言って、馬車を停めた。彼の言葉には、バッシュたちの置かれている状況を深く理解しているかのような響きがあった。


 バッシュは、ロイドの言葉に静かに頷き、荷台へと視線を向けた。グラハムの容態は変わらず、ソフィアは心配そうに彼の顔を見つめている。


 ロイドが馬車を停めたのは、確かに「医者の家」と呼ぶには異様な雰囲気の場所だった。古びた石造りの建物は、手入れは行き届いているものの、どこか殺伐とした空気を漂わせている。入り口に掲げられた薬草の紋章だけが、ここが医療施設であることをかろうじて示していた。


 バッシュは、グラハムを抱え、エライザとソフィアを伴って馬車から降りた。ロイドは荷台の荷物を降ろすのを手伝いながら、先に建物の中へと入っていく。


 彼らの前に現れたのは、体格のいい医師が一人と、二人の看護師だった。しかし、その看護師たちの雰囲気も尋常ではない。一人はどこか影のある女で、もう一人は無表情な年配の男だ。彼らの視線は鋭く、まるで来客を品定めしているかのようだった。ここは本当に医療施設なのだろうか、それとも別の顔を持っているのだろうか。バッシュの警戒心は、再び高まった。


 ロイドは、そんなバッシュたちの様子を気にする風もなく、軽く医師に声をかけた。


「よお、先生。久しぶりだな。ちょっとばかり厄介な患者を連れてきたぜ。」


 医師は、ロイドの声にわずかに眉を動かしたが、その表情はほとんど変わらなかった。彼の目は、無言でグラハムの重傷を見つめていた。


 バッシュがグラハムを運び込むと、体格のいい医師は無言で彼に近づき、その傷口を検分し始めた。影のある女の看護師と、無表情な年配の男の看護師が、黙ってその後ろに控えている。ここは医療施設というより、何か秘密めいた組織の本拠地のようだった。


 医師は傷口に触れ、脈を取り、グラハムの瞳を覗き込んだ。彼の顔には眉一つ動かないが、その瞳の奥には深い洞察が宿っているのが見て取れる。しばらくの沈黙の後、医師は重々しく口を開いた。


「傷は…ひどいな。」


 その言葉は、まるでグラハムの体を覆う見えない瘴気のようなものを指しているかのようだった。


「傷は治るだろうが…これは呪いか。…意識は分からんぞ。」


 医師はそう告げた。物理的な傷は癒せるが、意識不明の状態は、単なる外傷によるものではない。何らかの呪詛、あるいは精神的な攻撃を受けている可能性を示唆していた。


 その言葉を聞いた瞬間、バッシュの脳裏に、森で光の矢を放った金の耳飾りのローブの男の姿が鮮明に浮かび上がった。あの男は、単なる狙撃手ではない。呪いを操るような力を持っているのだろうか。グラハムの昏睡状態は、あの男の仕業に違いない。


「さあ、始めるぞ。時間はかかる。好きに待ってろ。」


 ゴールドウィンはそう言い放つと、二人の看護師に指示を出した。影のある女、サヤカと、無表情な年配の男、グスタフは、無言でグラハムを治療室へと運び込んでいく。彼らの連携は完璧で、まるで長年訓練されてきた兵士のようだった。ここが単なる医者の家ではないことを、改めてバッシュに印象付けた。


 ロイドは、ゴールドウィンの診断を聞き終えると、軽く肩をすくめた。


「それじゃあ、俺は一度荷を下ろしに店に戻る。またすぐに合流するからな。」


 ロイドはそう言って、馬車に残された荷物を指差した。彼の言葉には、治療費や滞在費についての言及はなかったが、その口ぶりからは、彼が全てを把握しているかのような余裕が感じられた。


 バッシュは、ロイドの言葉に静かに頷いた。ソフィアをこの殺伐とした場所に一人残しておくわけにはいかない。エライザもまた、ソフィアから離れたくない様子だった。


「分かった。エライザ、ソフィアも連れて、一度外へ出よう。」


 バッシュはそう告げ、エライザはソフィアの手を引いた。ソフィアは、不安そうにグラハムが運び込まれた治療室の扉を見つめていたが、バッシュとエライザに促され、おとなしく建物を出た。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ