表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第2章 道連れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/102

第2章 (15)バリスへ

 馬車の規則的な揺れと、朝日が差し込む柔らかな光に、エライザはゆっくりと目を開けた。隣にはバッシュが座っている。彼の顔は、夜通し見張りをしていたのだろう、わずかに疲労の色を帯びていた。


「…おはよう、バッシュ。」


 エライザは微笑んだ。昨夜の激闘の面影はもうなく、その顔には穏やかな朝の光が射している。しかし、すぐに彼女の視線はバッシュの右腕へと向かった。


「昨日の傷、大丈夫?まだ痛む?」


 エライザは心配そうに尋ねた。彼の「問題ない」という言葉を聞いても、やはり気になる。


「それに、バッシュ、寝てないでしょう?少しは休んでいいのよ…」


 そう言って、エライザは自身の膝をそっと指さした。暗に、膝枕をして休んでほしいと伝えている。彼女の瞳は、彼の疲れを労わる優しい光に満ちていた。


 バッシュは、エライザの予想外の行動に、一瞬だけ戸惑いを覚えた。だが、すぐにその表情を引き締め、優しい微笑みを浮かべた。


「ありがとう。」


 彼はそう言って、膝枕の誘いは受け入れず、ただ座ったまま静かに目を閉じた。エライザは、そんなバッシュの少し慌てたような様子を見て、クスッと小さく笑った。そして、何も言わずにそっと彼の肩に寄り添った。言葉はなくとも、二人の間に確かな温かさが流れる。


 前方で手綱を握るロイドは、そんな二人の様子をちらりと見たが、特に口を挟むことはなかった。しかし、その表情からは、いつもの飄々とした軽さが消え、深い思考の影が宿っている。


「…グラハム様が起きてくれなければ……」


 ロイドは、誰に聞かせるでもなく、静かにそう呟いた。彼の言葉は、グラハムが持つ情報の重要性と、彼が昏睡状態から目覚めることへの切なる願いを表していた。ロイドもまた、この旅の大きな目的が、グラハムの持つ秘密にあることを理解しているようだった。


 バリスの巨大な城壁が眼前に迫る。長かった旅路の終着点が見え、安堵と同時に、新たな緊張感がバッシュの胸に押し寄せた。


「やっとだな…」


 バッシュは静かに呟いた。彼の視線は、荷台で意識不明のまま横たわるグラハムに向けられている。


「まずはグラハムだ。何とか治療しないと…」


 彼の言葉には、グラハムの命を救いたいという切実な願いが込められていた。彼が持つ「裏切り者」や「もう一つの鍵」に関する情報も重要だが、何よりも彼の命が最優先だ。


 エライザもまた、グラハムの傍らに寄り添うソフィアを見つめた。幼い公爵令嬢の顔には、まだ不安の色が消えていない。


「ソフィアも狙われているわ…もしかしたら、バリスにいる方が狙われるかもしれない…」


 エライザの言葉は、バッシュが抱える懸念をそのまま表していた。皇国の首都バリスは、情報が集まる場所であると同時に、多くの人々の目がある場所だ。裏切り者が宮廷内部にいるとすれば、かえって危険な場所になる可能性も否定できない。


 ロイドは、そんなバッシュとエライザの会話を静かに聞いていた。彼の表情からは、いつもの軽薄な笑みが消え、真剣な眼差しが宿っている。


 バッシュは深く考えた。グラハムの治療、ソフィアの安全確保、そして「裏切り者」と「鍵」に関する情報収集。これら全てを同時に、そして迅速に進める必要があった。


 まず、グラハムの治療が最優先だ。バリスには高名な医者や、もしかしたら、この世界にはほとんど存在しないが、治癒魔法を使える者がいるかもしれない。彼を安全な場所に運び込み、治療を受けさせる必要がある。そして、彼の意識が回復すれば、ソフィアが狙われた理由、そして「裏切り者」の正体について、具体的な情報を得られるはずだ。


 次に、ソフィアの保護。公爵令嬢であるソフィアを、無防備なまま街中に置いておくことはできない。彼女の身分を明かし、安全な皇族の保護下に置くべきか。しかし、皇国に裏切り者がいるとすれば、それもまた危険な選択肢となり得る。信頼できる人物、あるいは場所を見つけ出す必要があるだろう。


 そして、情報収集だ。バリスの図書館やギルドには、多くの情報が集まっているはずだ。バッシュの指輪と刻印、「鍵」の謎、そしてエライザの故郷が滅ぼされた理由。これらの手がかりを探し出す必要がある。ロイドが持つ知識も、この点において重要になるだろう。


 しかし、最も懸念すべきは、「裏切り者」の存在だ。「裏切り者」とは何なのか?彼らはグリフォンを使役し、光の矢で狙撃を行うなど、並々ならぬ力と情報網を持っている。バリスという大都市で、彼らの追跡から身を隠しながら行動することは、容易ではないだろう。


 巨大な城門がゆっくりと開き、馬車は重厚な音を立ててその下をくぐり抜けた。門番の兵士たちが無表情にその様子を見守る中、バッシュたちの馬車は、首都バリスの喧騒の中へと進んでいった。


 どのような危険があるのか、今は分からないが、行くしかない。バッシュは静かに決意を新たにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ